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Still life goes on - 静物画 静かな物への愛着

『静物画 静かな物への愛着』をパラパラと眺めた。絵の一部として描かれている静物から始まって、リキテンシュタインやウォーホルまで一気に駆け抜ける。

静物画というと、テーブルに置かれた果物というイメージだったので、キャンベル缶が掲載されていたのを意外に感じてしまった。ものの見事にステレオタイプに囚われている。

それどころか、最初期の独立した静物画として紹介されている、1597年にカラバッジョが描いた『果物籠』の視線がテーブルと水平でむしろ新鮮だったり、17世紀オランダの作品に鰊や牡蠣が生々しく描き出されていたり、とどの時代の作品も「静物画」のイメージを広げてくれた。

ちょっと気になるのは解説文。進むにつれてワーディングが大仰になっていき、素直になるほどと受け止めにくくなる(活字中毒気味なので読んだけれど)。トリを飾る作品、モランディの『静物』になると、

人間の外側に物質は存在している以上、事物の見た目の真実、事物の外観の真実性から逃れることはできない。それと同時に、人間の内なる自我の存在、真実性を避けて通ることができない。

という調子。哲学の本を読むせいか、こういう言葉遣いをされると「〈見た目の真実〉、〈外観の真実性〉とはそれぞれ何を指しているのか」、「ではそれと〈自我の真実性〉はどのような関係にあるのか」と絵から離れた思考が走る。

最初の方は歴史的背景や描かれているものの解説だったので、わりと素直に読めていだけに不意打ちの感がなきにしもあらず。

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