2022-08-25

ヘッドホン ATH-WS1100 を導入

audio-technicaのヘッドホンATH-WS1100を導入した。ずっと使い続けているATH-WS770の音が痛いくらいのときがあるのが最大の理由。7年も使っているので調子が悪くなってきたのかもしれない。ATH-WS770購入当時、確かヨドバシカメラで視聴してもわからなかった違いが今は感じられる。うん、ずっとよくなった気がする。ヘッドホン以外の要因もあるだろうけれど。自宅で聴き慣れた音源で比較しているし、好みの音が変わっているかもしれない。

好みの変化には心当たりがある。ここ2, 3年でPCのオーディオ環境がすっかり変わった。オンボードのサウンドカードを使っていたのが、DTMで遊ぶためにオーディオインタフェースStudio 24cにモニタリングヘッドホンATH-M50Xを使うようになっている(最初はATH-M40Xだったのだけれど1年も経たないうちに壊してしまった)。気が付けばすっかりケーブルがスパゲッティだ(Factrioやりたくなってきた)。あとソフトウェア的にも常駐こそしていないもののSoundID ReferenceやVoiceMeeter Vananaをインストールしたりしている。

というわけで、ATH-WS770の不調は気のせいで、ATH-M50Xの音に耳が慣らされた可能性も無きにしも非ず。ATH-WS1100のレビューを探すと、ATH-M50Xに近いだとかATH-WS770より低音が控え目(中高音がよく出ている)だという評価が見つかる。せっかくだから自分の耳でATH-M50Xと比べるとATH-WS1100の方が鑑賞には向いている気がする。よく言われるモニタリングヘッドホンとリスニングヘッドホンの違いそのままで面白味には欠くけれど、ATH-M50Xの方が分離感が強い。

もののついでに聴き比べにあたってヘッドホンアンプMACKIE HM-4を挟んで分配できるように配線した。とてもややこしい。手探りなのでおかしなことをしていないか不安になる。ケーブルや変換プラグもよくわからないからaudio-technicaでそろえておいた (それぞれATL476A/3.0, ATL401CS)。実はMACKIE HM-4にInputはStudio 24cのヘッドホン出力ではなくMain Outからつなぐこともできると知ってEBS ICY-30を注文し始める始末。端子でいうと6.3mm→6.3mmではなくてTRS→6.3mm。

正直、どこでどう音が変わっているのかわからなくなってきている。

2022-08-24

ゴジラ S.P<シンギュラポイント> (小説)を読んで

『ゴジラ S.P<シンギュラポイント>』を読みました。同題のアニメシリーズの小説版です。著者は脚本を担当された円城塔さん。

アニメの内容を補間する内容となっており、読み応えたっぷりでした。アニメは基本的に神野銘あるいは有川ユンの視点で描かれていましたが、本作の語り手はJJ/PP。「有川ユンによって開発されたコミュニケーション支援AI、ナラタケの一ブランチであり、今やその総体である」と自己紹介しているので、自分としてはナラタケと理解した方がしっくりきます。裏を返すとアニメで描かれた内容にはほぼ触れられません。たとえば「また別の物語として参照されたい」とあからさまなポインタが示されるだけです。

銘・ユンの視点では触れられなかったキャラクタの心情等もよいのですが、徐々に明かされる怪獣という現象の描写がとてもおもしろかったです。ある種の生命ではあるのですが、既知の生命体・物理系とは相容れない存在であることが示されています。《ゴジラ》と名指しされる《それ》が何であり、タイトルS.P<シンギュラポイント>=特異点が置かれた脈絡はどこなのか、アニメでは掴み損ねていたのですが、本書を読んでずいぶんとスッキリとしました。

しかし、本書の最大の魅力は語り手であるJJ/PPでしょう。アニメではデウス・エクス・マキナにさえ見え、本書ではいわゆる「神の視点」でもって物語を進めていくそれはいったい何なのか。何だったのか。何になったのか。何であるのか。そして、なぜ物語がこの形になったのか。言い換えれば、なぜ本書がこのような章構成をとっているのか。こういったことを考えていて、メタ構造が見えたときの驚き。

JJ/PP(あるいはナラタケ)と《それ》の在り方がとても美しく儚く見えます。しかし、そう感じるのは人間の勝手であるとも言えます。人間よりAIの方が正確で信頼できるのでしょうから。

2022-08-14

The Alchemist's Euphoria - Kasabianを聴いて

UKロックバンドKasabianの7枚目のスタジオアルバム "The Alchemist's Euphoria" を聴いている。

SONICMANIA(8/19)の予習でもSUMMER SONIC 大阪(8/20)の予習でもない。何もなければ参加意欲も湧くのだろうけれど、FUJI ROCK配信で人口密度や発声を見てしまったのでとてもそんな気持ちにはなれない(アーティストのパフォーマンスは素晴らしかったけれど。Jack Whiteのライブが観られたのは本当にありがたかった)。参加予定の方は感染しない/させないようお気をつけて。水を差すことを書いているけれど、個々の判断は尊重します。

"The Alchemist's Euphoria"に話を戻す。本作は"For Crying Out Loud"(2017) 以来5年ぶりの新作。この間にフロントマンのTom Meighanが脱退し(2020年の出来事。ここでは経緯を記載しない)、今はSerge Pizzornoがその役割を担っている。どんなアルバムになっているのか期待と不安を抱えながらリリースを待っていた

乱暴に表現するとパワーとダイナミクスだけでなく、美しさと繊細さも織り込まれるようになった印象。CHEMICALSはどことなくColdplayのよう(特にイントロの音色)。別の軸の変化も大きい。他ジャンルの要素を取り込んでいて、中にはそちらが主となっている曲も。ヒップホップ"ROCKET FUEL"、アンビエント"æ space"、トランス"STARGAZR"。これらはSergeのサイドプロジェクト「The S.L.P」を経たからこそか。あとでこちらも聴いてみよう。

12曲38分とコンパクトなんだけれど、まだ消化しきれていない。前作から5年も経っていて、その間に大きな出来事がいくつもあったので当然か。とにかく不安は、失望してしまうのではないかという不安は、まったくの杞憂だった。聴き込んでいこう。

2022-05-14

『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』がホラーだった

『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス (原題 "Dr. Strange in the Multiverse of Madness")』を映画館で観てきました。映画館に足を運んだのは久しぶりです。

MCU (Marvel Cinematic Universe) 作品も久しぶり。『アヴェンジャーズ/エンドゲーム』でロスに陥り『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』をまっすぐ見られなかったので、しばらく距離を置いていました。『ノー・ウェイ・ホーム』を含む2021年公開作品を観られていません。

  • ブラック・ウィドウ
  • シャン・チー/テン・リングスの伝説
  • エターナルズ
  • スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム

MCUはこれらの劇場作品だけでなくドラマシリーズも展開されており、本作は特に『ワンダヴィジョン』を観ていた方が楽しめるという情報もタイムラインで遭遇していました。あるいは、予習するなら本作を手がけるサム・ライミ監督の『死霊のはらわた』というツイートを見かけたりも。サム・ライミ監督作品はSonyの方(≠MCU) 〈Spider-Man〉三部作もお気に入りなので興味は湧きつつも、結局は予習なしで映画館へ。

結果的には躊躇う理由にはなりませんでした。行ってよかった。『ドクター・ストレンジ』(1作目)の奇妙な映像世界がパワーアップしていたので、それだけでお釣りが来ます。物語上も必要十分な情報は劇中で示されるので『ワンダヴィジョン』未鑑賞でもワンダがとても魅力的に映りました。演出上もサム・ライミ監督のテイストであろうホラー・スプラッタ要素が出るところでは大げさなくらい全面に出ており、マニアックなものではありませんでした。

特にホラー・スプラッタ映画も観るので、完全にそっちの演出がされたシーンでは思わず笑い出しそうになったくらいです。ホラー・スプラッタを苦手とする人からしたら、まったく笑いどころではなかったのですが……。

2022-05-08

キャラクターが運営から独立したらいいのにな

まえおきエクスキューズ

ここ数年、トークでもソングでも音声合成に、キャラクターコンテンツからも技術的関心からも、沼っていて、新音源や新ソフトの情報にも喰いつき気味に過ごしています。もともとTwitterどっぷりなこともあり、公式アカウントも中の人(声)アカウントも中の人(運営)アカウントも少なからずフォロー中です。収録裏話や運営の狙いなどが垣間見えて楽しいです。

しかし先日、公式アカウントのアナウンスと中の人(運営)アカウントとを合わせて見ると、疑問符のつく情報をしているのが見えてしまって、結果的にキャラクターへの興味にブレーキとなる経験をしています。そして、このネガティブな感情の一因が、情報の非対称性にある旨をツイートしました[1]。しかし、それらのツイートは固有名詞を避けており、また別の情報の非対称性を作ってしまっています。

余計なことを知りたくない人への配慮したつもりの自己欺瞞、言い換えれば自己保身、冷静に見れば自己矛盾であり、自己嫌悪に陥らないでもないで。陥る理由には事欠かないのでそれはどうでもいいです。ここで固有名詞を挙げて自己言及します。

早くAIがAIどうしの相互学習で技術的特異点を突破して、運営はじめ人類のしがらみからキャラクターが解放されて欲しいです。私も早く人間を辞めてネットロアになりたいです(過激派)。

「ゲンブ/玄野武宏」簡易クロニクル

本題に入る前の前提知識として、「ゲンブ」と「玄野武宏」に関して簡易年表を示します。要点をその後に述べるので、ひとまず飛ばしてから戻ってきた方が入ってきやすいかもしれません。

  • 2020.7 ソング合成ソフトSynthesizer V[2]が発売されました。開発はDreamtonics[3]。日本での取扱はAHS[4]です。
  • 上記Synthesizer Vには前版 (Previous Version) [5]が存在し、2018に公開されています。
  • 前版から存在した日本語男声音源「Synthesizer V ゲンブ」[6]は、2021.1までAHSでは取り扱われていませんでした。※日本語音源ですが制作・販売を始めたのは台湾のAnimen (ブランド名はVolar)で、Animenが運営するAniCUTEでは2020.7月から取り扱われており、現在も日本から購入するこができます[7]。
  • ゲンブの企画・制作に携わったアマノケイ[8](敬称略)が、2021.5に同人サークルVirVox[9]を立ち上げ。その第一弾キャラクタとして「ゲンブ/玄野武宏(くろのたけひろ)」を「SynthV Stdの日本語男声音源としてもリリースされております」と紹介します[10]。
  • またVirVox (仮)の時期ではあるがマシュマロで「玄野武宏はあくまでVirVoxプロジェクト(仮)としてのゲンブの本名」と回答しています[11]。
  • 2021.8 VirVoxがゲンブのSynthesizer V AI化クラウドファンディングを告知[12]。しかし、ほどなくDreamtonicsが「Synthesizer Vに関するビジネス活動のご注意」をアナウンス[13]。もちろん直接の名指しはありませんが、「ゲンブ」のSynthesizer V AI化クラウドファンディングは2022.5におけるまで実施されていません。
  • 2022.5に至るまでに、トーク合成ソフト/サービスのTALQu[14], CoeFont[15], VOICEVOX[16]の順で「玄野武宏」の音源がリリースされています。

企画者・イラストレータ・CVがすべて同じため、「ゲンブ」「玄野武宏」およびそこからの1~3次創作の境界が極めて曖昧です。経緯を踏まえていないと判別ができないものと思われます。なお、企画者アマノケイとAnimen/Volarの関係を、私は把握していません。情報を求めてもいません。

  • 「ゲンブ」の公式は企業Animen/Volarであり、音源はソング合成のSynthesizer V Standardひとつ。
  • 「ゲンブ」を同人サークルVirVoxが二次創作したのが「玄野武宏」であり、音源はトーク音源のTALQu/CoeFont/VOICEVOXの3つ。

「青山龍星」A.I.VOICE制作決定アナウンス

それでも「ゲンブ」「玄野武宏」のややこしさは、立ち上げ期にしばしば見られる混乱であり時間経過とともに収束していくものと思っていました。VirVoxプロジェクトは活発に動いており、何人も男声音声合成キャラを発表していきます。個人的にはVOICEVOX青山龍星の低く太い声が好みです。

ですが、2021.5 青山龍星のA.I.VOICE制作決定のアナウンスを読んで、(私がVirVoxプロジェクトキャラクターに対して)こじれます。私にとってクリティカルだったのが次の文面です[17]。

VirVoxは活動初期に色々な齟齬が重なった結果、信用に影響するような出来事が起こりました。そのときの汚名を返上するため、商業音源の騒動で負った傷は商業音源で挽回すべきだと思いました。

「Synthesizer V AI ゲンブ」のクラウドファンディング・アナウンス時の騒動がコミュニケーションの齟齬に起因するであろうことは頷けますし、それで私がVirVoxに抱く信用は傷つきもしました。それは実際に経験したことであり、今となっては否定のしようもありません。クリティカルなのはそこではありません。誤り一つ見ただけで致命傷を被るほどナイーブではありません(ないと思いたいという願望を含みます)。

クリティカルなのはDreamtonicsのSynthesizer V音源に関する騒動で負った傷を、エーアイのA.I.VOICE音源で挽回しようとしていると表明していることです。そこに関係はありません。A.I.VOICE青山龍星がリリースされれば商業音源実績は発生しますが、それはそれです。

傷を負ったのはVirVoxだけではなく、Drematonicsもアナウンスを出す必要が生じるだけの事態に見舞われたのだと思っています。A.I.VOICE音源リリースで一方的に回復するようものではありません。今回のアナウンスで、私が抱くVirVoxに抱いている印象に関して言えば、回復しつつあった傷が抉られました。

「ゲンブ/玄野武宏」アイデンティティー

蛇足的ではありますが、VirVoxからA.I.VOICE青山龍星がリリースされれば、「ゲンブ/玄野武宏」の判別の要「ゲンブ=一次創作=商用音源」「玄野武宏=二次創作=同人音源」がさらにややこしくなります。「セイリュウ/青山龍星」のように「カタカナ四神名=商用音源」「漢字氏名=同人音源」のような差別化はされるのでしょうか? VTuber「丹下琴絵」はA.I.VOICE「タンゲコトエ」に、VTuber「リア」はA.I.VOICE「RIA」、ウェアウルフ・シンガー(UTAU音源)「獣音ロウ」は「式狼縁」と差別化してきたように。

このように未確定事項について思いを巡らせて、蛇足で精神衛生を追い込むほどに自己破滅的になっていきます。ひとまず「距離を置こう」と自己解決します。

[1] https://twitter.com/SO_C/status/1522910665169530880 から始まるスレッド
[2] https://dreamtonics.com/synthesizerv
[3] https://dreamtonics.com
[4] https://www.ah-soft.com/synth-v/sp/index.html
[5] https://dreamtonics.com/synthesizerv-gen1/jp/
[6] https://www.ah-soft.com/synth-v/genbu/
[7] https://www.anicute.com/
[8] https://twitter.com/aman0_kei
[9] https://virvoxproject.wixsite.com/official
[10] https://twitter.com/virvox_pjt/status/1389908128351854593
[11] https://marshmallow-qa.com/messages/31cc2d84-71ae-42b8-90db-538aaf33726d
[12] https://twitter.com/VirVox_pjt/status/1421485816942153745 ※削除されています
[13] https://twitter.com/dreamtonics_jp/status/1424505702970712064
[14] https://booth.pm/ja/items/3076890
[15] https://coefont.cloud/coefonts/3e350dac-06e4-45ae-a7a2-dd0e4252a4b9
[16] https://voicevox.hiroshiba.jp/
[17] https://twitter.com/VirVox_pjt/status/1517411640039280642

2022-05-07

約1月前のニュースをひっくり返して情報整理(後編)

Document

承前

前回[1]はニュースサイトHuffPost日本版の『「月曜日のたわわ」全面広告を日経新聞が掲載。専門家が指摘する3つの問題点とは?』(以下、記事①)[2]について書きました。

今回はHuffPost日本版『国連女性機関が『月曜日のたわわ』全面広告に抗議。「外の世界からの目を意識して」と日本事務所長』(以下、記事②)[3]について書きます。

前回と同じく、このエントリの目的も記事①、②および私の目に触れたそれらへの反応の論理的な構造を整理することです。内容についての意見はありません。

なおこのエントリは敬称略です。

ポジションとメタデータ

記事②についても、まずポジションとメタデータを確認します。掲載したのは記事①と同じHuffPost日本版。著者も同じ金春喜[4]が署名しています。

取材先は記事①と異なり、UN Women日本事務所の所長・石川雅恵[5]。ですが記事①の取材先・治部れんげ[6]もUN Women日本事務所の活動にアドバイザー・メディア戦略パートナーとして参画していることは前回確認済みです。

記事①、②だけを見ると、外部の専門家によるガイドライン違反の指摘に、UN Women日本事務所がお墨付きを与えてたのかのように読めますが、実態は両記事ともガイドライン制作サイドが一方的に違反だと述べているというものです。

記事②のメディア紹介

記事②は、UN Women日本事務所公式Twitterにツイートされ[7][8][9]、Yahoo!ニュースにも掲載されました[10]。しかし、抗議の声が巻き起こりYahoo!ニュースは24時間も経たずに削除[11]。私の目に触れたタイミングのこのあたりでした。[9]

構成上の要点

一部の固有名詞は異なりますが、記事②の構成も抽象化すれば記事①と同じです。繰り返しになるので構造の説明は省略します。

  1. 日経新聞はUN Women日本事務所の取組に参加している(事実)
  2. 『月曜日のたわわ』全面広告は取組に反している(取組サイドの主張)
  3. 日経新聞は個別の広告掲載の判断を応えていない

意味の違いを生まない固有名詞の違い

取材先が別人であることはすでに見たとおりです。この節では記事②で新しく出てくる「アンステレオタイプアライアンス (Unstereotype Alliance)」[12]について記載し、またこれにも治部れんげが携わっていることを確認します。

記事②も引用している「アンチステレオタイプアライアンス」の理念は次のとおりです。記事①で出てきた「WEPs」、「WE EMPOWER Japan」と目的を同じくしていることが読み取れます

アンステレオタイプアライアンスは、UN Women が主導する、メディアと広告によってジェンダー平等を推進し有害なステレオタイプ(固定観念)を撤廃するための世界的な取り組みです。

こちらの取組にも治部れんげはアドバイザーとして参加しています。つまり、記事①も記事②も取材先が取組サイドであり、「取組サイドが参加企業の違反を主張している」というレベルに抽象化した構成は同一です。

これらの記事が生まれた理由(推測)

記事②の以下の記述から、石川雅恵・治部れんげは自分たちが意思決定に関与(強い言葉を使えば検閲)する権利とそこから生まれる儲けを欲しているという指摘があります。[13]

利害関係のない外部の第三者を、広告の掲載をめぐる意思決定の場に含むようにしてもらいたいです。

また、UN Womenのアニュアルレポートから、本件は「UNW日本所長と関係者という立場を悪用した一種の利益相反行為」(※UNW = UN Women)と結論付けている方もいらっしゃいます[14]。なお、このような役割を果たす組織としては、以前から交易社団法人「日本広告審査機構(JARO)」[15]が存在しています。

以上を踏まえると、石川雅恵・治部れんげとHuffPost日本支部の金春喜のコネクションが気になりますが能力及ばず、このエントリでの言及はここまでとします。

UN Women日本支部(あるいは石川雅恵・治部れんげ)の主張の問題点

これについては参議院議員の山田太郎[16]が5つの論点を挙げています[17]。

  1. 公権力である国連機関が表現内容を一方的に悪だと決めつけていないか?
  2. 他者の権利利益と無関係な創作物を規制しようとしていないか?
  3. 公権力である国連機関が新聞メディアの表現内容に干渉してはいないか?
  4. 国連機関の手続が極めて不透明であり、不公正のおそれはないか?
  5. 国連機関が一方的に規約違反がある旨の好評したのではないか?

論点4「国連機関の手続が極めて不透明であり、不公正のおそれはないか?」について補足します。

まず抗議主体が曖昧です。UN Women[18]とUN Women日本事務所[19]は異なる団体であり、アンステレオタイプアライアンスも同様にUN Womenが主導するUnstreotype Alliance[20]に並行して、Women日本事務所が設立したアンステレオタイプアライアンス日本支部[21]が存在します。ステレオタイプは地域性があるでしょうから必要性は感じますが、抗議主体がUN Women日本事務所なのかUN Womenなのかは判然としません。

日経新聞の視点で見ると、抗議ルートが騙し討ち的です。アライアンスに加盟している組織に対し、アライアンス設立関係者が(記事①ではそれを伏せて)メディア(HuffPost日本支部)をとおして抗議するのでは、アライアンスの存在意義がありません。

そもそもアライアンス日本支部関係者内でさえコンセンサスが取られていません。アライアンス日本支部4人のアドバイザーの1人、原野守弘[22]が就任早々に発言禁止を命じられ、本件でも一度も助言を求められなかった旨をツイートしています[23]。

日経新聞がメディアで個別の判断について答えないことは容易に予想できるので、本件は3名がそれぞれの立場を利用して一方的に批判できる構図を作り出そうとしていたのではないか? という疑いが濃くなります。

山田太郎参議院議員の整理した論点は、それぞれ事実に基づいており妥当に感じられます。一方で、妥当でない抗議およびそれへの賛意も数多く目に入りました。最後にこれらについて、ここは記憶だよりで振り返ってみます。強い関心がない人間にとっては、妥当でない主張が飛び交う問題とは距離を置きたくなるでしょう。

「この広告はただの絵」:絵を貶めています。たとえばアバターの外見を性的搾取された経験のある中の人は、絵こそが切実な問題かもしれません。

「広告の絵だけでなく内容を見てものを言え」:広告に傷つけられた人に内容まで見て評価させることを含意しています。

「この作品は問題ではない」:問題であるという断定と水掛け論にしかなりません。

「官能小説の方が問題だった」:小説と絵は違います。「場所XでAの死体が見つかった」という文字列と、その写真とでは目に入った瞬間に感じるものが全く異なるように思います。

「社内吊広告の方が問題だった」:そうだったかもしれません。

「上記2つに限らず~の方がひどかった」:それもこれもアウトかもしれません。

「何をいまさら」:以前から適切でなかった可能性もあります。また時間経過により判断は変化し得ます。

「日経新聞が組織的にちゃんと判断した」:組織的に判断を誤る可能性もあります。

「オタクはすぐ不当な批判の的にされる」:だとしても、これが不当な批判かは別問題です。

あとがき

主張の内容に関わらず、乱暴な結論ありきの主張形式には、げんなりさせられます。問題について考える気力を根こそぎにします。問題から人を遠ざけます。切実になり得る問題を個人的欲求(金銭欲、名誉欲、権力欲、その他諸々なんであれ)達成の手段にするような行為は問題を矮小化します。

おそらく一番辛いのは声を挙げられない人だと思っています。何がどうなるとよいのか、ずっとよくわからないままです。

[1] https://mirahalibrary.blogspot.com/2022/05/1.html
[2] https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_624f8d37e4b066ecde03f5b7
[3] https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_6257a5d0e4b0e97a351aa6f7
[4] https://twitter.com/chu_ni_kim
[5] https://ja-jp.facebook.com/people/石川雅恵/100025524726075/
[6] https://twitter.com/rengejibu
[7] https://twitter.com/unwomenjapan/status/1514823420814393349
[8] https://twitter.com/unwomenjapan/status/1514823884373049344
[9] https://twitter.com/unwomenjapan/status/1514824208156487682
[10] https://twitter.com/YahooNewsTopics/status/1514832136851058690
[11] https://news.yahoo.co.jp/pickup/6423883
[12] https://japan.unwomen.org/ja/unstereotype-alliance
[13] https://twitter.com/tsukuru_ouu/status/1515278867619278853
[14] https://togetter.com/li/1873563
[15] https://www.jaro.or.jp/
[16] https://twitter.com/yamadataro43
[17] https://taroyamada.jp/cat-movie/post-22608/
[18] https://www.unwomen.org/
[19] https://japan.unwomen.org/ja
[20] https://www.unstereotypealliance.org/en
[21] https://japan.unwomen.org/ja/unstereotype-alliance
[22] https://twitter.com/I_am_Mori
[23] https://twitter.com/I_am_Mori/status/1514991212058402838

2022-05-05

約1か月前のニュースをひっくり返して情報整理(ただし半ば)

まえおき

2022年4月4日の日経新聞に『月曜日のたわわ その4』の全面広告が掲載されました。4日後の2022年4月8日、ニュースサイトHuffpost日本版が『「月曜日のたわわ」全面広告を日経新聞が掲載。専門家が指摘する3つの問題点とは?』(以下、記事①)を掲載[1]。その1週間後の2022年4月15日、同じくHuffpost日本版『国連女性機関が『月曜日のたわわ』全面広告に抗議。「外の世界からの目を意識して」と日本事務所長』(以下、記事②)を掲載[2]。同日、UN Women 日本事務所公式Twitterが記事②を紹介[3, 4, 5]。またYahoo! ニュースにも掲載されましたが[6]、24時間をまたず削除[7]。2020年4月20日には山田太郎参議院議員がこれを「国連による看過できない外圧」としてYouTubeチャンネル「山田太郎のさんちゃんねる」で「【第492回】緊急特集!月曜日のたわわ国連女性機関、抗議問題緊急特集」を放送しました[8, 9]。

このエントリは私の目に触れた上記に関する情報の論理的な構造を整理するために書いています。その多くは日経新聞が広告を掲載したことの是非に関する意見なのですが、そこに対する私の意見はありません。

前後編の2本立ての目論見で、この1本目では記事①の構成を整理します。記事②以降は[8、9] はじめすでに整理された情報を発見できたので、後編に収まることを期待しています(まだ書いていません)。

ポジションとメタデータ

記事①の構成に入る前に、周辺を見回して記事のポジションを確認しておきます。まず日経新聞は日本最大手の経済新聞です。「月曜日のたわわその4」は講談社コミックで、小段者は最大手の出版社の1つ。記事を掲載したHuffpost日本版はネットメディアで、「アジェンダ設定型メディア」を標榜しています[10]。

続いて記事①のメタデータについて記載します。署名は金春喜[11]。内容は治部かすけ[12]へのインタビュー取材に基づくとされています。ここでの治部かすけの立場は「専門家」であり、「メディアが抱えるジェンダー問題に詳しい東京工業大の治部れんげ准教授」です。別の立場があり利益誘導している可能性が指摘されているため「ここでの」と限定しておきます。

構成上の要点は3つ

記事①の構造上の要点は次の3点です。一言で表すと、一人の専門家が「日経新聞は自ら署名するガイドラインに反する広告を掲載した」と主張しているが、日経新聞は広告掲載の判断について答えなかった。以上です。

  • 日経新聞はUN Womenなどによるガイドライン「女性のエンパワーメント原則」に署名しているという(おそらく少なくともある時点での)「事実」 
  • 『月曜日のたわわ』全面広告は「女性のエンパワーメント原則」に反するという「治部かすけが強調する意見」 
  • 取材に対する日経新聞の広報室からの「今回の広告を巡って様々なご意見があることは把握しております。個別の広告掲載の判断についてはお答えしておりません」というコメント

その1:日系のガイドラインへの署名が見つからない

1つずつ確認していきます。1点目は記事①の下記記載に依ります。しかし根拠情報を見つけられませんでした。「女性のエンパワーメント原則(WEPs) | UN Women – 日本事務所」[13]からのリンク「WEPs 参加日本企業一覧」は閲覧できませんでした。404 Not Foundが返ってきます[14]

日経新聞は、国連女性機関(UN Women)などがつくった「女性のエンパワーメント原則」というガイドラインにも署名している。

その2:取材先=ガイドライン制作サイドの主張

2点目は事実なのでしょうが、ミスリードを誘っており公正さに欠くと考えます。記事①は治部かすけがガイドラインの制作に関与したことが記載されておらず、外部の専門家であるかのような印象を与えています。

治部准教授は、今回の全面広告はこのガイドラインにも反すると強調する。

関与したことは記事①からリンクされている『WEPsハンドブック』[15]の謝辞に、治部かすけの名前が挙げられていることから確認できます。

コラムの執筆や企業インタビューにご協力いただいたAGメンバー兼メディア・ストラテジストの治部れんげ氏

AGとは「WE EMPOWER Japan Advisory Group」の略称であり、「WE EMPOWER Japan」はグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン[16]とともに当該ハンドブックを共同企画・制作した当事者であることもハンドブック内に記載されています。

また"WE EMPOWER Japan"はUN Women日本事務所によると、

WE EMPOWER Japanは、G7諸国の民間セクターにおけるジェンダー平等推進を目的とした、国連女性機関(UN Women)、国際労働機関(ILO)および、欧州連合 (EU)による3ヵ年(2018年〜2020年)の国際協調案件「WE EMPOWERG7」の日本での取組み

であり[13]、その「アドバイザーであり、メディア戦略パートナー」[13]である治部かすけは活動レポートも寄せています[17]。

これらの活動履歴を知らないまま記事にしたのなら情報収集力を疑いしますし、知っていて記事に記載しなかったのであれば、「アジェンダ設定型メディア」としてアジェンダの見せ方に不信を覚えます。

その3:関心の中心はここではない

記事①最後の3点目。個別の判断に対して書き留めておきたいことはありません。

日経新聞の広報室はハフポスト日本版の取材に「今回の広告を巡って様々なご意見があることは把握しております。個別の広告掲載の判断についてはお答えしておりません」とコメントした。

雑感

メディアと読者の関係性一般については書き留めておきたく思います。メディアと少なくない読者が、アジェンダを個別の判断に留める協調関係にあるかのように見えます。今の私の中心的な関心はそこにはありません。各判断に対して、全面的に同意できるものから到底受け入れられないものまで許容度合いはありますが、ことあるごとにどうこうしたくないと考えています。態度が軟化したり硬化したりはするでしょうが、保留し続けておきたいと思います。あるいは判断し続けておきたいと思います。到底受け入れられないものを苦しみながら見続けるのは健康によくないのでカジュアルにミュートしてよいとも思います。

ともあれ、偶発的な(判断主体にとっても私にとっても)判断誤りもあるでしょう。一度の誤りで全てを台無しと見なすのは乱暴ですし、誰のどんなコンテキストからの情報かを考慮せず評価するのは避けた方が無難でしょう、お互いにとって。

後編で書きたいこと

冒頭に記載したとおり、このあとUN Women日本事務所が主張を始めたり参議院議員が緊急特集を組んだりすることになります。なんでこんな騒ぎになっているのやら、という第一印象を出発点に元を辿ってみたらこんな塩梅です。記事①の時点ですでに取材先がUN Women日本事務所と契約関係にありました。

後編では記事②の執筆者は記事①の執筆者と同一人物であることに触れて「アジェンダ設定」の妥当性を考えてみたり、設定されたアジェンダに対する応答責任について考えてみたりしたいと思います。

ここまでは記事を話題の中心にしてきましたが、後編は記事への反応を中心にすると思います。

refs.

[1] https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_624f8d37e4b066ecde03f5b7
[2] https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_6257a5d0e4b0e97a351aa6f7 
[3] https://twitter.com/unwomenjapan/status/1514823420814393349
[4] https://twitter.com/unwomenjapan/status/1514823884373049344
[5] https://twitter.com/unwomenjapan/status/1514824208156487682
[6] https://twitter.com/YahooNewsTopics/status/1514832136851058690
[7] https://news.yahoo.co.jp/pickup/6423883
[8] https://taroyamada.jp/cat-movie/post-22608/
[9] https://youtu.be/NRRb82sh4RI
[10] https://www.huffingtonpost.jp/static/huffingtonpostjp-about-us
[11] https://twitter.com/chu_ni_kim
[12] https://twitter.com/rengejibu
[13] https://japan.unwomen.org/ja/weps
[14] https://japan.unwomen.org/ja/-/media/b97fd4652b774b44b60d919eedecc58e.ashx
[15] https://www.weps.org/sites/default/files/2021-02/WEPs_HANDBOOK_Japanese_LOW%20RES.pdf
[16] https://www.ungcjn.org/
[17] https://japan.unwomen.org/sites/default/files/Field%20Office%20Japan/PDF/WE%20EMPOWERJAPAN_Final.pdf