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万華鏡と元凶 - カレイドスコープの箱庭

『カレイドスコープの箱庭』に収録されている同題の小説を読んだ。 アンコールまたはボーナストラックといったところか。派手な事件は起こらないけれど、田口と白鳥はもちろん、彦根、極北から速水、アメリカから桐生までが一同に会する。 個人的には、後からやってきた白鳥が活躍してくれたの嬉しい。『チーム・バチスタの栄光』の時のようで懐かしい。 『ケルベロスの肖像』 では活躍していなくて欲求不満だったので。 解決した事件は地味と言えば地味なんだけれど、こういう元凶が曖昧な悪意の方が恐ろしい。防ぎがたいという意味でも現実味を感じるという意味でも。 なお小説のあとに続くデータ部分はパラパラとめくったくらい。未読作品が整理できて助かった。少なくとも『スカラムーシュ・ムーン』は読みたいところ。 『ナニワ・モンスター』 だけでは消化不良だ。 最後に覚え書きとして未読作品を列挙しておく。 『スカラムーシュ・ムーン』(単行本未発売) 『ひかりの剣』 『玉村警部補の災難』 『ガンコロリン』 『夢見る黄金地球儀』 『モルフェウスの領域』 『アクアマリンの神殿』 『医学のたまご』

浪速には罠 - ナニワ・モンスター

『ナニワ・モンスター』を読んだ。 『輝天炎上』 を読んだ時は、あと 『ブレイズメス1990』 、 『スリジエセンター1991』 、『極北ラプソディ』を読んだら、『カレイドスコープの箱庭』に進もうと思っていたのだけれど、 『極北ラプソディ』 を読んだらこれも読みたくなって。思いがけず『ブレイズメス1990』、『スリジエセンター1991』とも繋がりがあって、驚いた。 本作は三部構成になっている。第一部では医療が舞台。開業医の菊間や検疫官・喜国が中心に描かれる。第二部では検察・警察が舞台。浪速地検の・鎌形や警察庁の斑鳩が中心となる(斑鳩は『輝天炎上』まで出ばり続ける)。第三部は政治が舞台。大阪府知事・村雨やスカラムーシュ・彦根が中心となる。 各部でテーマが切り替わるせいで散漫な印象。自分がよく楽しめたのは第一部。テーマが生活に直結している疫病対策だからだろう。第二部以降は政治色が強くなってきて、苦手意識が先に立ってしまった。〈田口・白鳥〉シリーズだと白鳥という現実主義の変人がいるおかげで面白いのだけれど、彦根の話は大き過ぎてちょっとついていけなかった。 でも、『輝天炎上』に至るまでの流れが掴めてスッキリした。あとは『カレイドスコープの箱庭』を読んで一区切り。と思ったら、『スカラムーシュ・ムーン』という連載も進んでいることや、『アクアマリンの神殿』という新刊が出ていること、その前作『モルフェウスの領域』を読んでいないことにも気がついたり、と芋づる式に関連作品を読みたくなってくる。うまいなぁ。

儚き墓 - スリジエセンター1991

『スリジエセンター1991』を読んだ。これにてバブル三部作が完結。 本作では、前作 『ブレイズメス1990』 で表面化した天城と高階との対立が、戦闘フェーズへと移行して瞬く間に決着する。 どちらがその後の趨勢となるか〈田口・白鳥〉シリーズで既に分かっていたから身構えてはいたけれど、エンディングは予想を超えてやるせなかった。途中から他シリーズでの天城の扱いに思いが至ってからは、戦闘終結後の天城の去就が最大の気掛かりになっていただけに一層。

金次第で致しかね - ブレイズメス1990

『ブレイズメス1990』を読んだ。本作は『ブラックペアン1988』の続編。同時に〈桜宮サーガ〉の一篇でもある。 先日読んだ 『極北ラプソディ』 の前日譚でもある。『極北ラプソディ』で極北市民病院を黒字化するために剛腕を振るっていた世良が、本作では東城大学医学部で天城に振り回されている。 この天城が、世良のルーツなんだろう。天城はお金に関する考え方が周囲と全然異なっていて、それを隠そうとしない。高階との反りが全然合わなくて、ヒヤヒヤする。世良は何とかついていって、理解しつつあるようだけれど。 でも、本作中ではまだ『極北ラプソディ』の世良と同一人物とは思えない。きっと続編の『スリジエセンター1991』で描かれるであろう事件が契機になるんだろうな。読むのが楽しみだ。

an ambulance and an avalanchea - 極北ラプソディ

『極北ラプソディ』を読んだ。本作は 『極北クレイマー』 の続編。 テーマの一つは医療と金。治療費の踏み倒しについて、議論されていたりする。踏み倒されるからといって税金として予め集めてしまって、自己負担を減らすとモラル・ハザードに繋がるし、難しそうな問題。 モラル・ハザードと言えば、救急車をタクシー代わりに使うのを止めて欲しいというポスターを思い出す。総務省消防庁が作った 『救急車利用マニュアル』 によると、2000年から2010年にかけて、人口はほぼ横ばい(1億2693万 → 1億2719万人)なのに救急車の出動件数は約30%増えている(418.4万 → 546.3万件)。救急車が必要になる事故・急病は、こんなには増えていないだろうなぁ。 この作品ではより早く患者を治療するためにドクターヘリが活躍しているけれど、現実には大したことのない理由で呼ばれたせいで必要な時に行くべき所に行けなかった救急車がいるのだろうなぁ、と想像すると気が滅入る。

常軌展延 - 輝天炎上

『輝天炎上』を読み終えた。 『螺鈿迷宮』 の直接的な続編だと思う。でも、描かれているのは 『ケルベロスの肖像』 と同じ事件。『ケルベロスの肖像』では田口の視点で描かれていたけれど、本作では主に天馬の視点から描かれている。 『ケルベロスの肖像』より先にこちらを読んでいた方がどちらも楽しめたんじゃないか、と思う。『ケルベロスの肖像』ではえらくあっさり描かれていた事件の裏側が、こちらでは十分な紙幅を割いて描かれている。惜しいことをした。 あと、これらの作品は読んでおきたいところ。一通り読んだら『カレイドスコープの箱庭』も読もう。 『極北ラプソディー』(『極北クレイマー』の続編) 『ブレイズメス1990』(『ブラックペアン1988』の続編) 『スリジエセンター1991』(『ブラックペアン1988』の続編)

首輪をつけられているのは誰か? - ケルベロスの肖像

『ケルベロスの肖像』を読んだ。『チーム・バチスタの栄光』から始まった〈田口・白鳥シリーズ〉の第六作。そして、最終作。 田口が動かない。それが、この物語で田口に課せられた使命なんだろう(高階病院長との遣り取りで、明確に言い渡されている)。けれど、物語として読んでいて主人公が動かないのは、やはり物足りない。せめてもう一人の主人公・白鳥にはもっと場を引っかき回して欲しかった。 代わりに動いたのは、『アリアドネの弾丸』で登場が予告されていた東堂と、『螺鈿迷宮』で主人公を務めた天馬。その他にも多数のキャラクタが登場して、最終作らしくオールキャスト。なんだけれど、そのせいで集中がもたない。「あれ、これだれだっけ?」ってなってしまう。 物語にも、他シリーズ作品(特に『螺鈿迷宮』と『ブラックペアン1988』)を読んでいないと理解できない部分が多かったように思う。〈桜宮サーガ〉という枠ではありなのかもしれないけれど、〈田口・白鳥シリーズ〉としてまとめて欲しかったようにも思う。 ともあれ、最終作らしい締めなのは良かった。感慨に耽りたくなる。けれど、他シリーズへの参照をいちいち思い出さねばならない道中がもどかしかった。それは、田口の境遇でもあったから、意図的なものなのだろう。ただ、純粋にエンターテインメントとして読むにはちょっと辛かった。 最後に覚え書き。読み始めたシリーズで未読の作品は読みたいので、ここに列挙しておく。 『輝天炎上』(『螺鈿迷宮』の続編) 『極北ラプソディー』(『極北クレイマー』の続編) 『ブレイズメス1990』(『ブラックペアン1988』の続編) 『スリジエセンター1991』(『ブラックペアン1988』の続編) って、調べていたら〈真の最終章〉なんて惹句が帯に踊る『カレイドスコープの箱庭』なんてのが!!

糸操り人形の繰り糸 - アリアドネの弾丸

『アリアドネの弾丸』を読んだ。『チーム・バチスタの栄光』から始まった〈田口・白鳥シリーズ〉の第五作。 大筋は変わっていない。病院内で起きた殺人事件に田口が巻き込まれ、そこに白鳥が現れ、Ai(オートプシー・イメージング) [1] の力を借りながら事件を解決するという流れになっている。 大筋だけ見るとミステリィのようだし、実際ミステリィ色も濃いのだけれど、並行して繰り広げられる司法と医療の駆け引きも負けず劣らずスリリング。後半、田口達が厳しい時間的制約の中、警察の強制捜査およびその報道を阻止しようとし始めたら先が気になって一気に読んでしまった。 報道の恐ろしさは、この台詞に象徴されている。警察の見解に引きずられる田口に告げられる、白鳥の言葉だ。 「いいかい、これこそヤツらのやり口なんだ。単調に、圧倒的な物量戦で、あたかも事実であるかのように偏向された情報が、無批判に垂れ流される。それは“操作”ですらない。ただ膨大な情報の海で溺れさせ、人々の判断力や感覚を狂わせてしまう。そんなもので、自分を見失ってどうするのさ、田口センセ」 フィクションだと『ゴールデンスランバー』、ノンフィクションだと 『戦争広告代理店』 や 『こうして世界は誤解する』 を思い出す。どれも「いつの間にか何となくそう思われてしまっている」ことの危うさが描かれている。 [1] 死亡時画像診断のこと。 死因不明社会 に詳しい。

制度設計制度

『イノセント・ゲリラの祝祭』 を読んだ。 本書は、先日読んだ 『螺鈿迷宮』 と同じ海堂尊の小説。 テーマは死因究明制度なので、 『螺鈿迷宮』の感想エントリ『螺旋ではない』 で引用した、警察庁の有識者研究会初会合開催のニュースがまた違った意味に見えてくる。 その後、もう少し調べてみたら、厚生労働省は2007年から「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」を開催していたことが分かった。 ところで、小説形式じゃなくてもいいんじゃないか、と思う。 登場人物による現行制度の問題指摘や解決に向けた新制度提案が多いため、本書から受ける印象は 『チーム・バチスタの栄光』 よりむしろブルーバックス(新書)として出版された 『死因不明社会』 に近い。 面白かったから続きが出たら読むと思うけれど、小説ならもう少し地の文が多い方が好み。

螺旋ではない

『螺鈿迷宮』 を読んだ。 先日読んだ 『極北クレイマー』 ( 感想 )の前日譚にあたる。 こちらの方が読んでいて面白かった、。 『極北クレイマー』を既に読んでいるので、あの終わり方にも納得できる。 逆に『極北クレイマー』を読まずに本書を読んでもそんなに悪くないと思う。 ミステリィ要素(一見不可解な事件やその解決)がある。 ところで、本書にも「Ai(Autopsy imaging)=死亡時画像病理診断」が登場する。 Aiは、CTスキャンで死因を調査する方法のこと。 解剖ほど手間暇はかからないし、体表検査より格段に高精度ということで、著者はAiをたびたび著作に登場させる。 実際、 『死因不明社会』 では、死因を明らかにするために、Aiの導入を推している。 こういう背景知識があったからか、国が死因調査に力が入れるようになるのではないか、というニュースに目が留まった。 作中では厚生労働省が動いているけれど、ニュースによると警察庁が動いているとのこと。 犯罪死の見逃しを防ぐため、遺体の死因を調べる制度のあり方を議論する警察庁の有識者研究会が29日、同庁内で初会合を開いた。貧弱さが指摘される遺体解剖体制の強化など、死因究明を確実に行える制度を検討する。 死因究明強化、年内に提言 警視庁研究会が初会合 少しずつ変わってきているのだな、と思う。

You Bodyは今

『極北クレイマー』 を読んだ。 本書は、北海道の病院を舞台とした小説。 これまで読んだ著者の他の小説(『チーム・バチスタの栄光』、『ナイチンゲールの沈黙』、『ジェネラル・ルージュの凱旋』、『ジーン・ワルツ』)と比べると、エンターテインメント性が低い。 ミステリィ要素(一見不可解な事件やその解決)はないし、本作品固有の登場人物のキャラクターも弱い。 何より、話が重い。 暗澹たる気分になる。 そうして問題を読者に意識させることが、提起が著者の狙いなのかも知れない。 けれど、どう取り組めば良いかは、分からない。 そこまで描いて欲しかったというのは、無い物ねだりだろうか。

腹痛くないから払いたくない?

『ジェネラル・ルージュの凱旋』 を読んだ。 本書は、『チーム・バチスタの栄光』、『ナイチンゲールの沈黙』に続く田口&白鳥シリーズ第3弾。 果たして、病院は警察署や消防署と同じ公共財だろうか。 自分は、異なると思う。 警察署が犯罪を減らせば、フリーライダーが犯罪に遭う可能性は小さくなる。 消防署が火災を減らせば、フリーライダーが延焼に遭う可能性が小さくなる。 しかし、病院がいくら怪我や病気を治しても、フリーライダーが怪我をする可能性や病気に罹る可能性は、小さくならない。 怪我をする可能性を小さくするのは主に安全学だし、病気に罹る可能性を小さくするのは主に衛生学だからだ。 また、医療費を安くすればするほど、些細なことで病院にかかる人が増える。 どうにかうまくインセンティヴを設計できないかなぁ、と時々思う。

死人に口なし - ナイチンゲールの沈黙

『ナイチンゲールの沈黙』 を読んだ。 前作 『チーム・バチスタの栄光』 の栄光と比べると、リアリティに欠ける印象。 と言うのも、DMA (Degital Movie Analysis) ――白鳥に言わせれば、「紙芝居」に無理臭さを感じてしまったからだ。 『死因不明社会』 のおかげでAi (Autopsy imaging) については疑問を持たなかったけれど、DMAはいただけない。 DMAの機能は、犯行現場がその状況になった過程の逆演算による犯行過程再現だと理解している。 結果から逆算しての原因推定は、独自に開発できるレベルのものではない。 同じ結果を示す原因は無数に存在する。