「『機龍警察 暗黒市場』を読んだよ」
「あれ、第一作の『機龍警察』はどうしたんですか? こんなことを言っていたのに」
でも、その前にシリーズ1作目『機龍警察』を読まないと。
Mirror House Annex: 竜頭荼毘
「そんな昔のことを持ち出されても」
「ほんの一月半ほど前のことじゃないですか」
「とまあこんな感じで本作の主要キャラ・ユーリも、日本に来る前の因縁に追い回されているわけで」
「一緒にしないで下さい」
「ま、軽重の違いはあれど、過去って厄介なものだよね。実効性のある強制力なんてないはずなのに、気がつけば選択が縛られている」
「自縄自縛?」
「誰に強制されているわけでもない、ってところが似ているね。それから〈義理〉や〈因縁〉にも似ているね。選択を縛る過去がプラスかマイナスかの違いはあれど」
「良かれ悪しかれ、周りの人との関係は生じてきますからね」
「でも、そういう後天的なしがらみに絡め取られてしまっても、初志というか大事なものは見失わないでいたいものだな、と」
「その一方で、周りが見えてから考え直した結果の方が良く見えることもありますよね、初志よりも」
「うん。何が昔から大切にしていたものかも、今大切にしているものがいつからこうだったかも、いつの間にか忘れてしまっていることも、判然としないよね」
「そんなにキッチリわける必要もないんじゃないですか」
「そっか。そうかもしれないね」
「そうですよ。今大切にしているものを、かつてそれを選んだ自分を信じる他ないです」
「そうだね。他人に見えるものでもないし」