「『コギトピノキオの遠隔思考』を読んだよ」
「ソウルドロップシリーズももうこれで7作目ですね」
「本作は過去編だったよ。伊佐が調査員に、千条がロボット探偵になったときの話」
「じゃあ大きな進展はなかったわけですね」
「うん。それは過去編の制約だよね。未来が分かっているから、意外な人物が死亡したり、物語の根幹に関わる謎が明かされたりはしない。だからというわけじゃないけれど、あとがきがいつになく面白かった」
「何の話だったんですか?」
「調子が悪いときの話。ここ最近は調子がいまいちだったから、あぁ、そんなもんだよなぁって納得してしまった」
「どんなもんだったんですか?」
「こんなもん」
おそらく、残念ながら――というしかないのだろう。悪くなってしまった調子は戻らない。戻ったとしても手遅れなのだからどうせ意味も無い。
「酷くネガティブですね」
「こんなもんだよ、少なくとも俺は。戻すことはあまり考えない」
「じゃあ、何を考えているんですか?」
「〈良かった昔〉を過大評価しているだけで、端から見たらすっかり戻っているんだけれど、調子が悪いと思っているの自分だけじゃないか、とか」
「何だか自分を誤魔化しているような」
「調子が悪いんじゃなくて、調子が変わっただけであって、これはこれで悪くないんじゃないか、とか」
「ますます誤魔化しが強くなっていませんか?」
「まー、ダメなときは何やってもダメだよねー。さて、この状況を撤退戦と考えると、どうやって被害を最小化しようか、とか」
「今度はさっぱりと割り切りましたね」
「主観的に調子が悪くて悩んでいるくらいなら、そんなもんでいいよ。それに、調子が良いからって良いことばかりじゃないよ? もう絶好調、これは完璧だぜーってときは他人には大して評価されなくて、逆にまだまだ納得しきってないけれどうーんってときが評価されたりするやん?」
「そういうことはありますけれど」
「他人の評価だけでふらふら左右されるのも、それはそれで問題だけれど、端からは何の問題もないのに、自分だけ悩んでいるのもバカみたいじゃない?」
「それはそうですけれど」
「何がキッカケで抜けられるかも分かんないしな。逆どんなに努力しても裏目に出ることも」
「それでも、調子がいいと、気分いいじゃないですか」
「それは違いない。けれどまぁ常に好調とはいかないよね。どうしたって。というわけで、BGMはRhymesterの『ノーサイド』で」
「先日発売された『ダーティサイエンス』からですね」
「明るい歌なんて聴きたくないときもあるよね」