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過大の課題

『日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか』を読んだ。

第4章が生々しい。あとがきによると、本章は「ダウンロード違法化はどのようにして決まったのか」は、私的録音録画小委員会などの議事録を元に構成されているとのこと。

そもそも委員会の構成が歪だったり、言いたいことを言いっ放つためだけの、合意を積み上げていこうという姿勢がほとんど見えない発言があったり、パブリック・コメントで集まった意見をほとんど無視したり、とこんな風に決まっていいの? と思う経過が描かれている。

ところで、その第4章に、「数字の信ぴょう性」という節がある。本節では、文化庁著作物流通推進室長が、2004年にファイル交換ソフトで違法ダウンロードされた音楽ファイルの推計を示している。その推計は、偏ったサンプルから集めた、分散が大きい(裾が長い)データの平均値に基づいている。

ここに大きくな問題が2つある。まず、この推計値は過大だ。このことは本書でも指摘されている。もう一つ、「係留と調整のヒューリスティック」 (アンカリング - Wikipedia) の影響がある。

嘘でもデタラメだろうと先に大きな数字を見せられると、人はそれに引きずられる傾向がある。この場合、示された推計が過大だと分かっていても、補正が過小になっている可能性が高い。

分かってやっていたら、結論ありきなんだろうな、と思う。

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