スキップしてメイン コンテンツに移動

寄る辺ない夜、ベル、弔鐘 - 天空の矢はどこへ? Where is the Sky Arrow?

『天空の矢はどこへ? Where is the Sky Arrow?』を読んだ。Wシリーズもはや9冊目。

前巻で読者には提示されていた百年シリーズとのリンクに、作中人物達も辿り着く。S&MシリーズやVシリーズが10冊で完結しているので次が完結だろうか? そう思ったけれど、Gシリーズは12冊以上(11冊が出てなおシリーズ継続中)なので根拠のない予断だった。

余談ついでに百年シリーズの『赤目姫の潮解 LADY SCARLET EYES AND HER DELIQUESCENCE』コミカライズされていたのに気がついたので購入してみた。いったいどうコミカライズされているので、まったく想像できないので楽しみ。そして、Gシリーズの冊数を数えようとして、『ψの悲劇 The Tragedy of ψ』をまだ読んでいないことを思い出した。たまたまタイムラインでちらっと感想を見てしまって、忘れてから読むことにしたのだけれど、読むことまで巻き込むこの忘れっぽさ。

百年シリーズで描かれた事件をとおして、マガタ博士に漸近しつつあるように見えるけれど、その距離はどこまで近づくのだろうか。有限の時間では追いつくことが叶わなかったけれど、寿命を克服した人間あるいは「ゆっくり考える」コンピュータが、極限で0に収束するのだろうか。理系っぽく書くのを試みた結果、S&Mシリーズ10冊目のタイトル『有限と微小のパン THE PERFECT OUTSIDER』を思い出す語句が並んだけれど、デビュー作で始まるシリーズの完結巻とつながるのだとしたら、とても美しいな。

Wシリーズ内の話をすると、今作でますます人工知能のウェットな(ように自分には映る)面が強調されたように思う。『ペガサスの解は虚栄か? Did Pegasus Answer the Vanity?』ではセンチメンタリズムを感じたけれど、今作で感じるのはロマンチシズム。予定表によると次のタイトルは『人間のように泣いたのか?』。シリーズを通して補助線が引かれ、面が増えていくのかもしれない。ところで、喩え先が人間なので泣くのが人間ではないことだけは分かるけれど、それは人工知能かウォーカロンかトランスファか、あるいは共通思考? 推測ではなく列挙しただけで、考えはないのだけれど、考えないだけに、当を得ないことを言いたくなる。何が泣くにせよ、悲しみによる涙でなければいいな。

ふと『君の夢僕の思考』を眺めていたら、こんなページが目に留まった。
人間だけが、悲しいのに笑える。嬉しいのに泣けるのだ。
『今はもういない』526頁

そう思っているのも人間だけだ。

出典:『君の夢 僕の思考 You will dream while I think』25頁

このブログの人気の投稿

北へ - ゴールデンカムイ 16

『ゴールデンカムイ 15』、『〃 16』を読んだ。16巻を読み始めてから、15巻を買ったものの読んでいなかったことに気がつく。Kindle版の予約注文ではままあること。 15巻は「スチェンカ・ナ・スチェンク」、「バーニャ(ロシア式蒸し風呂)」と男臭いことこのうえなし。軽くWebで調べてみたところ、スチェンカ・ナ・スチェンク (Стенка на стенку) はロシアの祭事マースレニツァで行われる行事のようだ[1]。それなりになじみ深いものらしく、この行事をタイトルに据えたフォークメタルStenka Na StenkuのMVが見つかった。 16巻では杉元一行は巡業中のサーカスに参加することになる。杉元と鯉登の維持の張り合いが、見ていて微笑ましい。鯉登は目的を見失っているようだが、杉元もスチェンカで我を失っていたので、どっこいどっこいか。なお、サーカス/大道芸を通じた日露のつながりは、実際にもこのような形だったようだ[2]。 個々のエピソードから視線を上げて、全体の構図を眺めてみると、各勢力がすっかり入り乱れている。アシㇼパは尾形、キロランケ、白石とともにアチャの足跡を辿り、そのあとを鶴見のもとで家永の治療を受けた杉元が鯉登、月島を追っている。今更だけれど、杉元やアシㇼパは、第七師団と完全に利害が衝突していると考えていないはずだった。一方で、土方一味も入墨人皮を継続。むしろ彼らの方が第七師団との対立が深刻だろう。さらに北上するキロランケはまた別の目的で動いているようだけれど、なんで尾形も一緒なんだっけ? 『進撃の巨人』に引き続き、これもそろそろ読み返す時期か。 [1] 5つの暴力的な伝統:スラヴ戦士のようにマースレニツァを祝おう - ロシア・ビヨンド [2] ボリショイサーカスの源流は、ロシアに渡った幕末日本の大道芸人たちにあった 脈々と息づく「クールジャパン」 | ハフポスト

戦う泡沫 - 終末なにしてますか? もう一度だけ、会えますか? #06, #07

『終末なにしてますか? もう一度だけ、会えますか?』の#06, #07を読んだ。 『終末なにしてますか? もう一度だけ、会えますか?』の#06と#07を読んだ。#06でフェオドールの物語がひとまずは決着して、#07から第二部開始といったところ。 これまでの彼の戦いが通過点のように見えてしまったのがちょっと悲しい。もしも#07がシリーズ3作目の#01になっていたら、もう少し違って見えたかもしれない。物語の外にある枠組みが与える影響は、決して小さくない。 一方で純粋に物語に抱く感情なんてあるんだろうか? とも思う。浮かび上がる感情には周辺情報が引き起こす雑念が内包されていて、やがて損なわれてしまうことになっているのかもしれない。黄金妖精 (レプラカーン) の人格が前世のそれに侵食されていくように。

リアル・シリアル・ソシアル - アイム・ノット・シリアルキラー

『アイム・ノット・シリアルキラー』(原題 "I Am Not a Serial Killer")を見た。 いい意味で期待を裏切ってくれて、悪くなかった。最初はちょっと反応に困るったけれど、それも含めて嫌いじゃない。傑作・良作の類いではないだろうけれど、主人公ジョンに味がある。 この期待の裏切り方に腹を立てる人もいるだろう。でも、万人受けするつもりがない作品が出てくるのって、豊かでいいよね(受け付けないときは本当に受け付けないけれど)。何が出てくるかわからない楽しみがある。