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腹に臓物 - アナトミカル・ヴィーナス

『アナトミカル・ヴィーナス 解剖学の美しき人体模型』を読んだ。きっかけは『一八八八 切り裂きジャック』。その中では、作者の名を冠して「スッシーニのヴィーナス」と呼ばれている。あと、町山智浩さんが『エイリアン: コヴェナント』の紹介で引き合いに出していた[1]のとも重なったのも、後押しになった。

この本、タイトルこそ『アナトミカル・ヴィーナス』だけれど、幅広く女性解剖模型の歴史を書いている。かつては「宗教」や「性」、「理性」が地続きで、そういう文化の下では女性解剖模型は受け入れられていたが、やがてそれらが分離し受け入れられなくなった。乱暴にまとめると、そんな話だった。

アナトミカル・ヴィーナスそのものの最後の用途は、移動式遊園地での見世物だったんだろう。そんなに風に思う。博物館の展示物でもあるけれど、その場合は歴史的資料の保存という側面がある。ただ、いずれにせよ「理性」の側面――解剖学の教材としては、用いられていない。

現在、解剖学の教材になっている人体模型は、無味乾燥で、不気味の谷に落ちているように見える。学校の怪談の題材にされるのは、その不気味さのせいか。医療関係者は事情が違うだろうけれど、多くの人は学校で見たのが最後なんじゃないだろうか。

ともあれ、アナトミカル・ヴィーナスが表舞台から姿を消しても、美しさとグロテスクさへの嗜好が社会から失われたわけではない。

ゴア描写や猟奇描写のある映画は今も作り続けられている。『エイリアン: コヴェナント』の紹介で引き合いに出されたのも、美しさとグロテスクさが同居していたからだ。

グロテスクさに振ると、スプラッタ映画がある。

一方で、美しさに振ると、直系の後継としてドールが存在する。カワイイ方向に進んでいくと、Blytheのようなデフォルメされた形になるし、性的魅力と交差すると、展示会が開かれて女性も多く訪れるラブドール[2]という形になるんだろう。

将来的にはセクサロイドも出てくるんだろうか、なんて〈天冥の標〉シリーズを思い出しもする[3]

本書の後半では、セクサロイドの登場を待たずとも、人形を家族と見なす人がいることも書かれていて、『ゲンロン0』の家族についての議論を思い出す[4]

収集が付かなくなってきたので、この辺りで。

[1] 町山智浩 『エイリアン: コヴェナント』を語る参照。「美しいグチョグチョさ」を説明するために言及している。
[2] 女性客が6割! オリエント工業40周年記念展「今と昔の愛人形」で感じた「不気味の谷」が潜む場所 | ロボスタ - ロボット情報WEBマガジン
[3] 主要登場人物に《恋人たち (ラヴァーズ) 》と呼ばれるセクサロイドがいる。
[4] 『ゲンロン0』は随分前に一度読み終わっているのだけれど、全く考えがまとまらなくて、まだ感想を書けていない。

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