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伝説と経験 - 悲終伝

『悲終伝』を読み終えた。10冊目の本巻にて〈伝説〉シリーズ終結。

最初の『悲鳴伝』を読んだときは、続くかどうか、続いても終わるかどうか知れなかった。続く四国編は、5冊 (『悲痛伝』『悲惨伝』『悲報伝』『悲業伝』『悲録伝』) も続いて、7冊目『悲亡伝』でも終わりが見えなくて、それが次の『悲衛伝』でクライマックスに差し掛かったと思ったら、続く『悲球伝』そしてこの『悲終伝』で見事に着地を成し遂げた。

綺麗な着地とは言えない。救助船〈リーダーシップ〉で何が起こったのかもう少し読みたいし、〈人間王国〉の乗鞍ぺがさ&馬車馬ゆに子にも活躍の場が欲しかった。ソフトランディングでさえない。ハードランディングでさえないかもしれない。タッチアンドゴーの感さえある。

それでも、終わってよかったと思う。よい終わりだったと思う。主人公・空々空 (そらから・くう)が、〈英雄〉と呼ばれた少年が、変化してよかったと思う。育まれたと見る人も衰えたと見る人もいそうだけれど、自分はよかったと思っている。

『悲鳴伝』と同じように『悲終伝』も読み進めるにつれて『少女不十分』のイメージが浮かび上がってきた。『悲痛伝』から『悲球伝』にかけてすっかり薄れていたイメージが、輪郭を取り戻し、彩りに満たされた。

よかった。よい話だった。地濃鑿 (ちのう・のみ) もいいキャラしてた。その地濃様が初めて登場する四国編が長過ぎただなんて、これっぽっちも思っていませんよ、ええ。

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