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READ OVER - スタートボタンを押してください

ゲームSFの短篇アンソロジー『スタートボタンを押してください』を読んだ。収録されているのは十二編。「解説」によると
原書アンソロジーは二十六編、五百ページ超えの分厚さ。邦訳はそこから厳選した十二編を収録している。
とのこと。五百ページか、〈境界線上のホライゾン〉の半分くらいだな。全編収録してくれてもよかったよ? などと思うのは感覚が麻痺しているからだと思う。日本語訳による長さの変化と原書アンソロジーの判型を考えてからものを言いましょうね(手遅れ)。

自分のお気に入りは「猫の王権」と「神ゲーム」(順不同)。「猫と王権」は短篇ならではのエンディングに心惹かれた。閉じた王国に新しい扉が開けさせられたような気もしないでもない。「神ゲーム」は某ゲーム攻略サイト(心証がよくないのでボカした)を思い出させるタイトルとは裏腹にしんみりとした物思いを誘う雰囲気が堪らない。

「1アップ」と「ツウォリア」は軽快に読めた。カラッと気持ち良く楽しませてもらった。「ツウォリア」が、『火星の人』を書いたアンディ・ウィアーの作品だったので、『アルテミス』をまだ読んでいないことを思い出す。楽しみが尽きないのはよいことだ。

読み比べておもしろかったのは、「リコイル!」と「キャラクター選択」。ネタバレになるのでこれ以上はやめておく。

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『ゴールデンカムイ 15』、『〃 16』を読んだ。16巻を読み始めてから、15巻を買ったものの読んでいなかったことに気がつく。Kindle版の予約注文ではままあること。 15巻は「スチェンカ・ナ・スチェンク」、「バーニャ(ロシア式蒸し風呂)」と男臭いことこのうえなし。軽くWebで調べてみたところ、スチェンカ・ナ・スチェンク (Стенка на стенку) はロシアの祭事マースレニツァで行われる行事のようだ[1]。それなりになじみ深いものらしく、この行事をタイトルに据えたフォークメタルStenka Na StenkuのMVが見つかった。 16巻では杉元一行は巡業中のサーカスに参加することになる。杉元と鯉登の維持の張り合いが、見ていて微笑ましい。鯉登は目的を見失っているようだが、杉元もスチェンカで我を失っていたので、どっこいどっこいか。なお、サーカス/大道芸を通じた日露のつながりは、実際にもこのような形だったようだ[2]。 個々のエピソードから視線を上げて、全体の構図を眺めてみると、各勢力がすっかり入り乱れている。アシㇼパは尾形、キロランケ、白石とともにアチャの足跡を辿り、そのあとを鶴見のもとで家永の治療を受けた杉元が鯉登、月島を追っている。今更だけれど、杉元やアシㇼパは、第七師団と完全に利害が衝突していると考えていないはずだった。一方で、土方一味も入墨人皮を継続。むしろ彼らの方が第七師団との対立が深刻だろう。さらに北上するキロランケはまた別の目的で動いているようだけれど、なんで尾形も一緒なんだっけ? 『進撃の巨人』に引き続き、これもそろそろ読み返す時期か。 [1] 5つの暴力的な伝統:スラヴ戦士のようにマースレニツァを祝おう - ロシア・ビヨンド [2] ボリショイサーカスの源流は、ロシアに渡った幕末日本の大道芸人たちにあった 脈々と息づく「クールジャパン」 | ハフポスト

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