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堂々巡り - 伽藍堂の殺人、教会堂の殺人

教会堂の殺人 ~Game Theory~ (講談社ノベルス)〈堂〉シリーズ4、5作目、『伽藍堂の殺人』と『教会堂の殺人』を読んだ。ちゃんと順番通りに読めてよかった。もし『伽藍堂の殺人』を読まずに『教会堂の殺人』を読んでいたら、酷く混乱したに違いない。

数学要素に惹かれて読み始めたのだけれど、回を重ねるごとに薄まってきていて何だか物足りない。薄まったのではなくて、こちらに耐性が付いてきたのかもしれないけれど。

『伽藍堂の殺人』ではバナッハ=タルスキーのパラドックスが、『教会堂の殺人』ではゲーム理論が参照されているけれど、事件との関連性にエレガントさが感じられない。特に『教会堂の殺人』は真相にも解決にも説得力が感じられなかったのが辛い。力ずくの強弁でもいいから……。

代わりに関心が移ってきたのが、登場人物達の役どころ。ミステリィの配役についてのお約束を解体しようとしている様が見受けられる。ミステリィと言えば、探偵、助手、犯人がいて、犯人が起こした事件を探偵が解決する様を助手が読者に伝える形式を取るのが、黄金パターンだ。

もしかしたら、数学は見せ球で、こっちが本命なのかもしれない。思えば一作目から――ネタバレ防止のため自粛。

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