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2月, 2016の投稿を表示しています

鎌を鋤に - 激突のヘクセンナハト II

『激突のヘクセンナハト II』を読んだ。コミックじゃなくて小説の方。こちらは、この1冊でメアリー・スーとの決着がついている。 これで鏡に対するメアリーの恨みは解消したのだろう。一読者としてはあっさりし過ぎに感じられたから、もうちょっとドロドロして欲しかった気もしないではないけれど。 解消した以上、鏡とメアリーとの共闘が見てみたい。描かれていないメアリーの故郷では幾度となくあったのだろうけれど、メアリーが鏡に決着時の台詞を言わせるほどの成長を遂げたこの世界で、本巻での葛藤を超えた上で共に闘っているところが見てみたい。満が焼き餅を焼きそうだし、エルシー・ハンターから鏡への問いに対する回答を踏まえると、鞘当てになりそうだけれど。 ところで〈メアリー・スー〉は、二次創作で原作の世界観を損なうほどに贔屓されたオリジナルキャラクタのことを指すらしい。本書を読んだ後に、他の人の感想をWebで広い読みしてその名前にひっかかっている人がいたのでググって見たらいろいろと見つかった。それでようやくカバー裏の掌篇の意味が分かった。二次創作に寛容な作者らしいし、このOBSTACLEシリーズでは鏡の妹が創造した多数の世界が存在していることを思い出すと、示唆的だ。創造主が滅ぼしにかかっているこの世界では、誰が贔屓してくれるのだろうか? と一抹の不安もよぎる。彼女に幸あれ。 同じように調べてようやく分かったことといえば、「こっちではF-23なのかね?」から「狙い過ぎだろう……設定が!」の流れの意味。鏡の妹はミリオタか [1] 。 [1] アメリカの先進戦術戦闘機計画でYF-22とYF23が競った結果、史実ではFY-22が勝ってF-22で採用されたけれど、この世界ではYF-23がF-23として採用されたという理解。合っているのか自信無し。

鎌も剣も - 激突のヘクセンナハト (2)

コミック『激突のヘクセンナハト (2)』を読んだ。小説を先に読もうと思っていたのだけれど、先に手元に来てしまったら、矢も楯もたまらず。発売日に日付が移ってしばらくしたら、配信してくるのだからKindleは恐ろしい。 コミックI巻は小説I巻1冊に対応しているけれど、コミックII巻は小説II巻の途中まで。おかげでコミックI巻よりずっと話を追いかけやすくなった。コミックII巻に比べると、コミックI巻はやはりカットし過ぎだった。 どこで終わるかというと、ランク2位メアリー・スーとのランクマッチ開始直後まで。前哨戦があったとはいえ、この巻のメインは人間関係か。満が鏡にデレたり、スーが鏡に因縁をつけたりする。このあとランクマッチが終結したとき、スーの思いがどう描かれるかコミックIII巻が待ち遠しい。 実はもう小説II巻を読み終えて、どんな幕引きか知ってしまっているのだけれど、幸か不幸かスーはサブキャラで、彼女の視点からは描かれていないことも多い。そのあたりも含めてコミックではどう描かれるか、想像が膨らむ。 胸中どんな思いを抱いていることやら。この世界で出会う前から鏡のことを知っているというだけで、不安が鎌首をもたげてくる。2人は別の世界で出会っていて、その世界は滅びているはずだからだ。異世界からやってきた勇者が救うのに失敗した世界の住人が、別の世界でその勇者と再会したのだ。折り悪く、故郷の世界を滅ぼした相手を今度こそ止めようと研鑽を重ねているところに、だ。そのうえかつては友人が「引くほど尊敬していた」というのだから。

Memory Free - 楽園追放 2.0 楽園残響 -Goodspeed You-

『楽園追放 2.0 楽園残響 -Goodspeed You-』を読んだ。映画 『楽園追放 -Expelled from Paradise-』 の後日譚にあたる。 前日譚にあたる『楽園追放 mission.0』も読んでおいた方がいい。結末に言及されているので、こちらを先に読んでしまって後悔している。ちなみに、帯には「すべての外伝の総決算」という惹句が踊っているけれど、本作の他の外伝はこれだけ [1] 。 舞台は本編と同じでディーヴァと地球だけれど、遥か遠く外宇宙に飛び立ってしまったフロンティアセッターも〈複製体〉という形で登場する。フロンティアセッター好きなのでたまらない。もし、フロンティアセッターが登場していなかったら、本作を読まなかったんじゃないだろうか [2] 。 フロンティアセッターのだけでなくアンジェラの複製体も登場するのだけれど、物語を牽引するのはそのどちらでもない。3人の学生ユーリ、ライカ、ヒルヴァーだ。彼らの視点で描かれる、普通の (メモリ割り当てが限られている) ディーヴァ市民の不自由さは、本編をよく補完してくれている [3] 。また、この不自由さはアンジェラの上昇志向にもつながっていて、キャラクタの掘り下げにも一役買っていると思う。アンジェラについては前日譚である『mission.0』の方が詳しいだろうけれど。 この3人の学生と、フロンティアセッターとの会話を読んでいると、フロンティアセッターがフロンティアセッターしていて思わず笑みがこぼれてしまう。そうして、エンディングに辿りついたとき、その笑みが顔全体に広がるのを抑えるのに難儀した。 おめでとう、フロンティアセッター。 最後に蛇足。関連ツイートを 『楽園残響 -Goodspeed You-』読書中の自分のツイート - Togetterまとめ にまとめた。 [1] 『楽園追放 rewired サイバーパンクSF傑作選』は『楽園追放』と直接の関係はない。映画の脚本担当・虚淵玄さんが影響を受けたSF作品を集めた短編集。 [2] フロンティアセッターは登場しないと思って『mission.0』を読んでいない。 [3] 本編では、保安局高官の理不尽さを通して不自由さこそ描かれてはいたものの、日常的な不自由は描かれていなかったように思う。アンジェラも凍結される前は豊富なメ

魔法の色のクオリア - 魔法の色を知っているか?

『魔法の色を知っているか?』を読んだ。本作は『彼女は一人で歩くのか?』に続くWシリーズ第2作。 本シリーズの楽しみの一つが、登場人物の間で交わされる、人間とウォーカロン (生体ロボット) の区別の可不可についての議論。可不可だけでなく、区別することの意味さえ問われる。 区別が人によって分かれるロボット――つまりロボットらしい人間よりは人間らしいと認識されるロボットは、そう遠くない未来に開発されると思う。あるいは既に、あるロボットより人間らしくない人間は存在しているんじゃないだろうか。人間の振れ幅はそれ程度には大きいと思う。 もしそういうロボットが目の前にいたら、自分はどう反応するだろうか。〈中国語の部屋〉とか〈哲学的ゾンビ〉とか、哲学の文脈では既に相当量の議論がされているだろうし、それに触発されて自分でも考えてみたりはするけれど、実際のところ会ってみないと分からないことも多いだろう。想像の世界でのシミュレートと、現実の世界で返す反応とでは変わると思う。 本作ではとっくに普及しきっている世界だけれど、どういう過程を経てこうなったか(前作に描かれていたけ気もするれど)想像を膨らませるのが楽しい。

アイヌ・レ - ゴールデンカムイ1~5

「『ゴールデンカムイ』を1~5までまとめ買いしてしまった。ちょっと前に試し読みして以来、ずっと気になっていて」 「衝動買いというわけではなさそうですね」 「ヒロインのアシㇼパさんがかわいい」 「変った名前なのはアイヌ民族だからですね」 「うん。だから、アイヌの文化や風習がたくさん出てくる。成長するまで汚い名前で呼ばれる風習がおもしろい。きれいなものを好む病魔を遠ざけるためなんだって」 「ちなみにアシㇼパさんはなんて呼ばれていたんですか?」 「エカシオトンプイというらしいよ。意味は自分は調べてみよう!!」

黒将軍 - 残念女幹部ブラックジェネラルさん 1

「『残念女幹部ブラックジェネラルさん 1』を読んだよ。タイトルに恥じぬ残念っぷりが素敵だ」 「それは多少は恥じた方がよいのではないでしょうか」 「残念な悪の秘密組織つながりで、鷹の爪と手を組んだりしないだろうか」 「しないでしょう……」 「どちらのトップにも威厳ないし」 「そういう問題では」 「唐突に描いてみた」 「鷹の爪の方がいないようですが」 「引っ張るんかい」

クラヤミサクラ - Fate/stay night [Heaven's Feel] 1, 2

『Fate/stay night [Heaven's Feel] 1』、『2』を読んだ。 アニメで[Unlimited Blade Workd] (凛ルート) を観て、iOS版で[Fate] (セイバールート) をクリアして、[Heaven's Feel] (桜ルート) をどうするか迷った結果、コミックスで追いかけることにした。劇場版はいつやるか分からないし端折られるだろうし、ノベルゲームは台詞を聴かされるのがストレスで……。 後書きで原作者も絶賛しているし、Webで見つかる評判も上々。実際、うまくコミカライズされているのだろう。未プレイだけれど特に分かり辛いところもなく、楽しめている。 本格的に桜ルートへと分岐するのはこれかららしい。期待。

只者ではない老兵はただ去るのみか - 僕のヒーローアカデミア7

『僕のヒーローアカデミア7』を読んだ。 ヒーロー殺し・ステインとの決着がついたり、オールマイトの口からラスボスらしき存在について言及されたり、期末テストが始まったり、とこの巻も高密度だった。もう7巻だというのに全くダレる気配が感じられない。 職場体験も終わり、グラントリノのところからお別れなのが寂しい。また登場して欲しいな。でも、出張らない方がらしい気もする。悩ましい。 というわけで描いてみた。 スピンオフや外伝でグラントリノがオールマイトを鍛えている時代の話、描かれたりしないかなぁ。

手続きと宣言と - 螺旋時空のラビリンス

『螺旋時空のラビリンス』を読んだよ。タイムトラベルSFと聞いて。 意味で予想を裏切られた。表紙から受ける繊細なイメージとは裏腹に、ディストピアから始まったりする。 Twitterでタイトルを検索したら『紫色のクオリア』に言及するツイートを見かけた。言われてみれば。でも、自分が先に連想したのは『Steins;Gate』だった。タイトルを構成するのが「四字熟語 + の + カタカナ」なので余計にそう感じるのかもしれない。 でも、立ち止まって考えてみると、タイトルという外形以上に、感情移入の仕方という内面的な違いが見えてくる。その違いを生んでいるのは、主人公の視点からの「失敗」の見え方の違いだと思う。 どちらも「失敗」が複数回発生する点は同じだけれど、本作や『Steins;Gate』などのいわゆるループ物では、試行錯誤と失敗が繰り返されているように見えるのに対して、『紫色のクオリア』(とか恐らく参照しているであろう『宇宙消失』)では失敗前提の総当たりをしているように見える。 プログラミングの手続き型と宣言型の違い似ている気がする。思いついてしまったので、少し掘り下げてみよう。 ループものはCに代表される手続き型だ。逐次処理をループさせて成功条件が成立したらループを脱出している。 while(true) { // なんやかんや; if (目的を達成) { break; } } happyEnd(); 一方、後者はSQLなんかが属する宣言型だ。成功条件を記述してそれを満たす結果だけを手に入れようとしている。 SELECT result as HappyEnd WHERE 目的を果すための条件 FROM なんやかんや; こんなイメージ。

足がかり - 神々の歩法

『神々の歩法』を読んだ。第6回創元SF短編賞受賞作でつまり短篇。短篇一作品を手軽な価格で買えるのは電子書籍ならでは。 短篇だというのに強さのインフレが甚だしい。強そうな戦争サイボーグ部隊が出てきたと思ったら、相手の魔神めいた存在は彼らを軽々と蹴散らしてしまう。そこに魔神と同じ力を振るう少女が現れて――という展開。 いたってシリアスなSFアクション。とても 『ウは宇宙ヤバイのウ!』 と同じ作者による作品と思えないくらい。でも、そう感じるのも当然で、下記の通り10年以上前に原型ができていた作品らしい。 デビュー前に書いた中の一つ、およそ12年前の作品が原型になっている。 宮澤伊織「SFのSは小文字のs」【第6回創元SF短編賞受賞記念エッセイ】|Science Fiction|Webミステリーズ! これはこれで面白かったし、きっとこっちの方が間口が広いのだろう。けれど自分が続きを読みたいのは、『ウは宇宙ヤバイのウ!』の方。この受賞が足がかりになって『ウは宇宙ヤバイのウ!』が売れて続編が出ないかしらん。

過大な課題? - 角川インターネット講座10 第三の工業革命

『【全15巻合本版】角川インターネット講座』、『1 インターネットの基礎 (の第2部)』の次に読んだのは、『10 第三の産業革命』。監修は山形浩生さん。この方の訳書はどれも刺激的 (『1』の感想で言及した『CODE 2.0』もこの人が翻訳)。 全10章の話題は多岐に渡っているけれど、序章にあるとおり1冊の本としては一つの仮説として編まれている。 自分の理解では、イントロt+3層レイヤ+Future worksという構成になっている。本書が意図が反映されているであろう部の構成とはズレるけれど、自分としては以下の構成に分けた方が、予備知識と噛み合う。 イントロに相当するのが序章と第2章。全体の要約あるいはアウトラインが示されている。第1章と第3章が1層目=論理モデルの話。経済的な原則の話。第4章から第6章が2層目。モデルに対する実装に相当する産業の話。第7章から第9章が3層目。モデルを支えるリソース = ヒトやカネの話。そして、最後の第10章がFuture Works。つまり未来の話。 第1章がインターネット以前から観察できた原則 = ネットワーク外部性がインターネットでも観察できるという話。第2章は「過剰への適応」である贈与経済の話。「贈与」というキーワードから哲学のコンテキスト = 『贈与論』やそれに端を発した「構造主義」を連想するのだけれど、これらの関係についてもう論じられていたりしないのだろうか(なまぐさなので大して調べていない)。 第4章から第6章は、メディアの話とメイカー (Maker) の話だった。第一次産業 (農業とか漁業とか) の話が抜け落ちていているように見えるのが気になるところ。生きていくためには必須なので気になるところではあるけれど、同時に語るには振れ幅が広すぎるから省かれたということだろうか。 第7章から第9章は、人と都市それから金融の話。人と都市の話は切っても切り離せないと思う。クラウドソーシングという分散の話と、クラウドソーシングでは賄えない太いコミュニケーション帯域を必要とするがゆえの都市への集中の話。テレワーキングだノマドワーキングだと言いながらも、(少なくとも現時点では)ノンバーバルのメッセージ(身振りとか声のトーンとか表情とか)も含めると対面コミュニケーションじゃないと伝わりきらないと思う。金融はホントよく分

リーン倫理 - 角川インターネット講座1 インターネットの基礎

『【全15巻合本版】角川インターネット講座』をちょっとずつ読み進めている。先日 (1月末頃)、Kindleストアで、87%OFF+20%ポイント還元の大盤振る舞いだったので、全部は読まないだろうと思いつつまとめ買い。 最初に読んだのは、『1 インターネットの基礎』の第2部『TCP/IP発明者からの「宿題」』。大きな課題が俯瞰的に語られていて新鮮だった。自分の視線は細部にばかり向いている (その割に解像度は低いけれど)。 IPv6とかHTML5とかHTTP2.0とか、ここ数年で要素技術がアップデートされているけれど、もっと長期的かつ抽象的な「宿題」が提示されている。いくつも挙がっている中で、自分が特に気になったのは次の3つ。どちらかというとユーザの視点が強く出ている。 あらゆるレベルのセキュリティ ビット腐れ (bir rot) ガバナンスに関する課題 セキュリティが確保されていないと安心して使えないし、ビットが腐ると思うと大事なデータのアナログな原本を捨てられない。もちろんこれらは、利用者個人としても気をつけるべきことではある。パスワードを使い回さないとか、データは定期的にバックアップするとか。でも、技術的に解決できるものならして欲しい。 一方で技術と個人だけでは解決しない問題もある。著作権の問題をはじめ、技術が法の前提を揺るがすことがある。これらはガバナンスに関する課題として顕在化してくるはず。それから、技術からさらに離れると、倫理に関する課題も出てくるはず。 ロボット倫理 とか 神経倫理 とか。このあたり、哲学の〈主体〉とか〈責任〉に関する議論と繋がりそうだよなぁ。このあたり 『CODE 2.0』 が詳しかったはず(記憶が朧気)。対比させるとこんな感じだろうか。 アーキテクチャ: 技術 市場: ユーザ 法: ガバナンス 規範: 倫理

花密度 - フラワードリーム2016

チケットを頂いたのでフラワードリーム2016に行ってきた。 昨年も思ったのだけれど、背景が勿体ない。もっとパーティションとか置けないのだろうか。 一部はパーティションが置いてあるのだけれど。 こういうタイプはパーティションがなくても大丈夫。

剣と弓 - 激突のヘクセンナハト (1)

『激突のヘクセンナハト I』を読んだ。小説じゃなくて漫画の方。Kindle化されていたのと、小説も漫画ももうすぐ2巻が出るので、ちょうどいいタイミングだと思って (この記事の公開は出た後だけれど、その前に読み終えていた)。 期待通り全長500mを超えるマギノフレームどうしの戦闘がが派手で見ていて楽しい。良くを言えば、対比物が一緒に入っているコマがもっと欲しいけれど、作画が大変過ぎるか。 代わりというわけではないだろうけれど、駆け引きの描写をはじめいろいろとカットされているのが残念。ポンポン話が進んでいってしまうから、漫画から読んでいたら置いてけぼりを食っていたと思う。 2巻も小説を読んでから漫画を読むことにしよう。

坂本でした - 坂本ですが? 4

「『坂本ですが? 4』を読んだよ」 「もう終わっちゃいましたね」 「自分にはちょうどよかったなあ。もっと引き延ばされていたら、途中で飽きちゃっていたかも」 「そう言えば 3巻の感想 では、どんどんエスカレートしていかないか心配していましたね」 「杞憂だったね。潔く終わって好感度が上がったよ。さすが坂本君」 「坂本君でしたね」 「最後までな」

親カエル子ガエル - nanoblock アマガエル

「 nanoblockのアマガエルを作ったよ 」 「あれ、前も作りませんでしたっけ?」 「前作ったのは ニホンアマガエル だから、ちょっと違うんよ」 「ちょっとどころじゃなくて子供が一匹増えているんですが」

what's playing?

(何聴いているのかなぁ) (♪)

本文 - プロローグ

『プロローグ』を読んだ。ある本の序章を読んだという意味ではない。『プロローグ』というタイトルの本を読んだという意味。なお 『エピローグ』 はもう読んだ。連載は同時期だったらしいけれど、電子版が先に出ていたので。なお、『本文』と合わせて三部作だったりはしない [1] 。 「エピローグ」や「プロローグ」をタイトルにできるなら他にもあっていいと思って考えてみた結果、『あとがき』というタイトルの小説を銃器ブランドをペンネームの由来にしているライトノベル作家 [2] が機会を虎視眈々と狙っているはずだという確信が得られた。ちょっと期待している。次に浮かんだのは『謝辞』というタイトル。J-RAPにあるんじゃ。ググったらすぐ見つかったよ、マジ感謝 [3] 。 こうやって考えてみたけれど、『『AUTOMATICA』『円城塔』』というタイトルの短篇 [4] を既に書いているくらいなので、『プロローグ』や『エピローグ』なんてジャブみたいなものなのかもしれない。註が本文を侵食している小説もあったりするから油断できない [5] 。もう何がタイトルで何が著者名で何が本文か分からなくなってくる。 もしかしたら本文がちゃんとあるだけまだマシかもしれない。件名だけで終わるEメールや、クラシック音楽の独立した「前奏曲」のように、「まえがき」だけで終わる本があったらどうしてくれようか。なんてことを考えていたら、本文より著者一覧の方が長い論文がイグ・ノーベル賞を受賞していたことを思い出した [6] 。「まえがき」だけで終わったとしても、文章があるだけ御の字なのかも知れない。 論文といえば、自動生成された論文がときおり論文誌に掲載されたりするようだ [7] 。東ロボくんも模試で平均4点の論述問題で9点を獲得できたみたいだし [8] 、本作で描かれる小説の自動生成が実現するのもそう遠くないのかも知れない。ハリウッド映画の制作では既にAIによるサジェストが、脚本や早い区に影響を与えているくらいだし [9] 。 自動生成と言えば、ちょっと前にネットで話題になって [10] 、結局先日国会図書館が返却するに至った『亞書』 [11] は、人手で即興的にギリシャ文字を打った [12] というのにがっかりした。もうちょっと気の利いたことをしていたら、面白いことになったかもしれないのに。未だに解読され

hello hollow - 時砂の王

SF小説『時砂の王』を読んだ。いわゆるタイムトラベルもの。何かにつけてスケールが大きくて、圧倒される。以下、 ハヤカワ・オンラインの商品詳細 くらいのあらすじプラスアルファに触れているので、それが嫌な人は閉じてください。触れずにちゃんと感想を書けなかった。 続きを読む まず、歴史をガンガン変えまくっていくのが、凄まじい。タイムトラベルものというと、登場人物は移動した先の歴史になるべく干渉しないように振る舞う作品が多いけれど、この作品はそうではない。そういう倫理観は持ち合わせているのだけれど、ある目的を最優先させているため、干渉を躊躇わない。 その目的は、人類を滅亡から救うこと。もう少し正確に言うと、人類が滅亡しない未来に至る世界を生み出すこと。つまり、本作で歴史改変すると、未来が変わるのではなく、別の未来への分岐が生まれる。いわゆる多世界解釈というやつだろうか。この歴史改変の性質上、繰り返し人類を滅亡させることになるのが悲劇的だ。 『フリーランチの時代』 で先にスピンオフ作品「アルラワの潮の音」を読んだのがキッカケで読んでみたけれど、こっちのがずっと好みだ。こっちを読んでから、「アルラワの潮の音」を読んだら、きっとまた違った感想なのだろうけれど。 一言でいうと、メッセンジャー・Oがとても素敵だった。渋い。

人類みな麺類- ざるそば(かわいい)

「以上『ゆゆ式 (5)』より」 「どうしたんですか、突然?」 「まさか、ざるそば (魔法少女) がざるそば (魔法) でざるそば (食事) を出す小説が出版されることになろうとは、誰が予想できただろうか!? というわけで『ざるそば (かわいい)』を読んだよ」 「おうどんではないんですね」 「あとがきで作者いわく」 テーマは美少女のざるそば化。ただでさえかわいい美少女がざるそば化により更にかわいくなったとしたら、それは、ざるそばがかわいい証明になるはずです。 「擬人化でさえない……」 「しかし、こんなことにも、先人はあられるようで」 つちせ八十八『ざるそば(かわいい)』(MF文庫J)。これはハチャハチャSFである。作者がヨコジュンを意識していたかどうかは不明だが、その精神はハチャハチャSFに通底するものがある。横断歩道の代わりにざるそばが来たようなものだ。 「〈ハチャハチャSF〉なんて言葉があるんですね」 「気になって"ハチャハチャSF 横断歩道"でググってみたりしたけれど、ヨコジュン = 横田順彌というSF作家ということは分かったのだけれど、どの作品のことを言っているかまでは特定できず。無念」 「Webが広がる前の作品だからでしょうかね」 「昔の作品の感想はそもそもWeb上に少ないだろうしなぁ」 「もったいない話です」 「ところで、食べ物の活躍と言えば、『徒然草』の大根を毎日食べていたら、敵に襲われたときに見知らぬ兵が助けてくれてその正体は大根だった、って話を思い出す」 「ありましたね、そんな話」 「しかし一体全体、毎日食べていた大根とその兵とはどういう関係なんだろう。食べてしまった大根の霊だろうか。だとしたら、いつ食べた特定の大根の霊なのか大根の霊の集合体なのか。それともまだ畑に生えている他の大根が人の形になったものなんだろうか。こっちだとしたらそれはそれで、一体どうやって大根を毎日食べている人を特定したのか、集合的無意識でもあるのか。それとも、大根の評判を高めるために大根を装った八百屋か」 「今なら兵じゃなくてゆるキャラになりそうですね」 「深谷ねぎを生やしたふっかちゃんみたいなものか」 「って何の話ですか」 「えーっと、ざるそば (おうどん) だったけ」 神奈川県の、なんの変哲もない住宅街の一角。一本の麺の片

Kag Life? Sak Life? - 出番ですよ! カグヤさま 2

『出番ですよ! カグヤさま 2』を読んだ。安定のしょうもなさ(誉め言葉)。 この2巻ではカグヤの妹サクヤが出てくる。次は弟のタクヤだろうか。いや、だったら最初にアクヤが登場してしかるべきだ。 という言葉遊びはさておき、最後にちゃんと三巻への引きが用意されている。次巻はスベ子こと総社桃花にフォーカスが当たりそう。 〈這い寄れ! ニャル子さん〉シリーズは、ニャル子の活躍が尻すぼみになってしまったのが残念だったけれど、本シリーズではどうなるだろうか。引き続きカグヤが活躍し続けるのかな。 カグヤは1巻、2巻と無双し続けているけれど、次あたりでそろそろちょっと弱いところも見えたりするのかな。それとも天上天下無双し続けるのかな。 代わりというわけじゃないけれど、サクヤはカグヤに大きなコンプレックスを抱いているように見える。ような見えないような。

堂々巡り - 伽藍堂の殺人、教会堂の殺人

〈堂〉シリーズ4、5作目、『伽藍堂の殺人』と『教会堂の殺人』を読んだ。ちゃんと順番通りに読めてよかった。もし『伽藍堂の殺人』を読まずに『教会堂の殺人』を読んでいたら、酷く混乱したに違いない。 数学要素に惹かれて読み始めたのだけれど、回を重ねるごとに薄まってきていて何だか物足りない。薄まったのではなくて、こちらに耐性が付いてきたのかもしれないけれど。 『伽藍堂の殺人』ではバナッハ=タルスキーのパラドックスが、『教会堂の殺人』ではゲーム理論が参照されているけれど、事件との関連性にエレガントさが感じられない。特に『教会堂の殺人』は真相にも解決にも説得力が感じられなかったのが辛い。力ずくの強弁でもいいから……。 代わりに関心が移ってきたのが、登場人物達の役どころ。ミステリィの配役についてのお約束を解体しようとしている様が見受けられる。ミステリィと言えば、探偵、助手、犯人がいて、犯人が起こした事件を探偵が解決する様を助手が読者に伝える形式を取るのが、黄金パターンだ。 もしかしたら、数学は見せ球で、こっちが本命なのかもしれない。思えば一作目から――ネタバレ防止のため自粛。

意識一式 - フリーランチの時代

『フリーランチの時代』を読んだ。本作は次の篇が収録されている短篇集。 フリーランチの時代 Live me Me. Slow-life in Starship 千歳の坂も アルワラの潮の音 「フリーランチの時代」は、フリーランチが手に入るようになる過程の話。つまり、生きるのに何かする必要がなくなるようになる話。もしそうなったら、ひたすら本を読んで過ごしたい……。 「Live me Me.」は、身体や意識の在り方についての話。意識が何らかのソフトウェアだとして、脳とは別の物で実行できたら、それは元の意識とどういう関係になるんだろうか。締めが印象的だった。森博嗣の〈百年〉シリーズを連想する。 「Slow-life in Starship」は、宇宙に引きこもれるようになった時代の物語。〈天冥の標〉シリーズと同じキーワード が出てきたのだけれど、同じ世界なんだろうか。 「千歳の坂も」は、不老不死が実現した社会が舞台。実現したというか「法定健康」なる法律用語ができて、それが義務化されている社会。さらにそこから変わっていく社会が、厚生勤労省健康維持局、健康普及員の羽島の目を通して描かれる。自分でも思考実験をしてみると面白い。 最後の「アルワラの潮の音」は 『時砂の王』 のスピンオフ作品。本編を未読だったので、置いてけぼりにされた感がある。『時砂の王』も読むしかないな。

開示メイジ - マギ28

『マギ28』を読んだ。 煌帝国の内乱に対して、ついにシンドバッドを筆頭とする七海連合が動いた。紅玉ちゃんに仕込んでいたゼパルによる催眠をおおっぴらにしたので、これで必要なくなると踏んでいるわけだ。 そのシンドバッド、これまでもいろいろと黒さを見せてきたけれど、ここに来てさらなる事実が発覚する。今のところそれを知るのは、アリババとジュダルの二人だけだが。 そのアリババを始め、アラジン、モルジアナの主人公(のはず)勢の動きは少ない。アリババはようやくジュダルと一緒にみんなのところに戻ろうとしているところ。アラジンは、バルバッドで迷い続けている。モルさんに至っては、動き無し。寂しい。 一方で、本巻の最終話で示唆される玉艶の影。話を畳に来ている印象を受けていたけれど、まだ一波乱二波乱あるということか。 続きが楽しみ。

テン・ストーリーズ - バナナ剥きには最適な日々

『バナナ剥きには最適な日々』を読んだ。10篇の短篇が収められている短篇集。 その内の一篇『パラダイス行』にこんな一文がある。 今拍手が鳴ったのは、打ちあわされた君の右手と僕の右手、どちらからだと思うかね。 これを読んだ瞬間、禅問答の「隻手音声」という思い出した。隻手=片手だけじゃ打ちあわせられないから、もちろん音なんて鳴りやしない。 だからどうした? と問われると返事に詰まる。どうするつもりもなくても連想してしまったのだから。そうなったしまったら、なかったことにはできないのだから、どうしようもない。連想したからといって、深い意味があるわけでもなく、大概しょうもない。 深い意味があることなんて何もない。それどころか浅い意味があることすら何もない。意味がない事象から意味を組むのは、観察する人間の方だ。何の変哲もない点3つ = ∵ が顔に見えるのと同じ。 だから、引用文から「どちらでもない。二人が協力したからこそ拍手が鳴ったのだ。人には協力しないとなしえないことがある」という人生訓を引き出す人もいるかもしれない。拍手は一人でだって鳴らせるのだけれど。 この種の事実誤認に基づいた人生訓に意味がないと主張するつもりはないのだけれど、実際のところ否定された気持ちになる人もいるだろうことも想像に難くない。 思わせ振りな言葉があれば、何か思ってしまうわけで。それに乗せられて、思考をもてあそぶのも楽しいわけで。

4篇読んで - 老ヴォールの惑星

『老ヴォールの惑星』を読んだ。本書は次の4篇が収録されている短篇集。 ギャルナフカの迷宮 老ヴォールの惑星 幸せになる箱庭 漂った男 『ギャルナフカの迷宮』は、迷宮に閉じた物語。先日読んだ 『〔少女庭国〕』 と出発地点が近しい。その後の展開は、こちらの方が好み。『ギャルナフカの迷宮』を楽しむにしろ『〔少女庭国〕』を楽しむにしろ、こちらを先に読みたかった。 『老ヴォールの惑星』では、反対にスケールの大きさに圧倒された。人類とは異なる知性が描かれるの、自分にとってSFの醍醐味の一つ。人間の発想には、人間の身体とか地球の環境とかの制約がかかっているかもしれないと想うと、そこから自由な知性が何を考えるか、好奇心が湧く。 『幸せになる箱庭』は仮想現実もの。今となっては陳腐化するくらい使い倒されているネタなので、リアルタイムで読めなかったのが悔やまれる。「セレス」という言葉が出てくるけれど、 『天冥の標』 シリーズと同じ世界なのかしらん。 『漂った男』は 『ゼロ・グラビティ』 や 『火星の人』 を思い出した。一番のお気に入りはこれ。

やりとりストーリィ - エクストリームプログラミング

「『エクストリームプログラミング』を読んだよ」 「新訳の方ですね」 「最近、コミュニケーションが原因の問題に直面しているから、次の質問に考え込んでしまった。いろいろと考えてみたものの、まとまらないままだけれど」 問題に遭遇したときは、それがコミュニケーションの欠如によるものかどうかを自問してみよう。今から問題に対応するには、どのようなコミュニケーションが必要だろうか?これからトラブルに巻き込まれないようにするには、どのようなコミュニケーションが必要だろうか? 「そもそも得意じゃない方ですよね?」 「うん。そのうえ相手あっての話なのが難しい。自分だけじゃどうにもならないから。まったく、どうしたもんかなぁ」 「一朝一夕で解決するような問題ではありませんし、気長にちょっとずつ変えていくんでしょうね」 「のんびり構えるかなぁ」

2015年に読んだ本の集計

「ようやく2015年に読んだ本を集計できたよ」 「お疲れ様でした」 「というわけで結果発表」 「早速ですね」 「2015年は合計180冊の本を読んでいて、内訳とここ数年の推移はこの通り。じゃじゃーん」 小説: 65 読書: 30 新書: 5 漫画: 80 「12月に読んで1月に感想を書いた本は、2016年に回しているのであしからず」 「順調に漫画が増えていますね」 「にも関わらず小説以外の読書量がちょっと増えたのが意外。あんまり読めなかった気がしていたので」 「蓋を開けてみれば去年を超えていますね」 「去年が少なかったなぁ、これは」 「小説の数は小さなブレを維持していますね。狙っているのかと思うくらいです」 「ともあれ何とか1月中に集計できてよかった。喉のつかえが取れた気分」 「もう12時を過ぎて2月になっちゃってますよ……」