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底本のない訳本

道化師の蝶『道化師の蝶』を読んだ。『これはペンです』(感想)に引き続き、円城塔の作品。

本作は、『道化師の蝶』と『松の枝の記』の2中篇からなる。『これはペンです』と違って、両者に直接的な関連はない。

芥川賞を取った『道化師の蝶』より『松の枝の記』の方が好み。単行本単位では、『これはペンです』の方が好み。

自分にとっては、中短篇は、独立しているより連作になっている方が面白い。

あと自分のステータスと読んだ場所が本書を読むのに適していなかったようにも思う。帰り道、集中力を保てないような状態で読んでいたから余計に楽しめなかったのかもしれない。

本作に限らず、円城塔作品はワーキングメモリを確保した状態で読んだ方が面白いと思う。

ところで、最初に「両者に直接的な関連はない」と書いたけれど、全く関連がないわけでない。二つの作品は「翻訳」で繋がっている。

まず読者がいない言語で書かれた本。底本がなくて翻訳が先にある本。

本だとおかしな感じがするけれど、もう少し抽象的に考えると、あり得ない話ではない。誰に聞いて欲しいわけでも、下手をしたら誰にも聞かれたくないけれど、発したい言葉だってあるだろうし、相手が言葉に詰まったときに助け船を出すことだってある。

そう言えば「もしもモノマネ」なんか、底本のない翻訳のようなもののような。

一種のシミュレーションとして捉えればいいのかな。

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