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球と線 - ジャコメッティ展

国立新美術館に行って、『ジャコメッティ展』を観てきた。

一番惹き付けられたのは『3人の男のグループⅠ』(下記ツイートの写真参照)。すれ違う距離の狭さに周囲の雑踏を思い浮かべたり、ちょっとした肩の傾きに『地下室の手記』の肩がぶつからないように避けるだの避けないだのといったエピソードを思い出したり、くるくる周囲を回りながら眺めているうちに3人の歩行者が三角錐に見えてきたりして、どこからどう見ても楽しい。



ところで、いくつか眺めていたら、どうして彫刻なのだろう? という疑問が湧いてきた。原因はボリュームのなさ。歩いている人は棒みたいだし、立っている人は板みたいだし、猫は針金細工みたいだ。

その「猫」、ボリュームがあるのは頭だけであとはほぼ線。丸い頭に細長い胴に手足が、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』のジャックみたいでかわいい。こうなっているのは、いつも正面から見ていたからというような解説だった。



「見たものを見えたままに表現する」ことを目指していたらしいので、真っ先に見えたであろう顔が強調されるのは素直だ。見えたまま=視覚を通して認識した結果が、見たものそのものじゃなくなるのも理屈としてはわかる (実際にこんな風に見えていたと想像すると、空恐ろしいけれど)。でも、見えたままに絵にするだけじゃなくて、見えなかった部分も含めて彫刻にしたのはどうしてだろう? そんな疑問を抱いて帰ってきた。

今改めて、もう一度、形を変えて考えてみる。正面からでは見えないものが見えていないままに表現されていないのはどうしてだろう? と考え直してみる。うん、むしろその方が恐ろしい。何かを見た時、それを平面と認識したりはしない。立体として認識する。それに、見えたのがたとえ一部でも、存在全体を意識する。一部が見えたとき、それが本当に一部だけだったら、ホラーだ。あ、スプラッター系のホラー映画で、恐怖からがら逃げ出して無事な姿の仲間を見つけて近づいたら、前のめりに倒れてきて、前後両断死体の前半分だったとかありそう。何の話をしているんだ。SAN値ピンチか。

何の話をしているのか分からなくなってきて、何を見て何を認識しているか分からなくなってきて、影が円にも三角にも四角にも見える立体を思い出して、プラトンの洞窟の比喩を思い出して、ろくすっぽ見ても分かってもいないのではないかと思い始めてきた。「君は見ているが観察していない。その差は明白だ」[1]とシャーロック・ホームズまで出てくる始末。というわけでこのあたりで。

国立新美術館では9月4日までだけれど、10月14日から豊田市美術館に場所を移して再開される。行きやすい方でぜひ。犬もいるので犬派の方もご安心を。
[1] 『ボヘミアの醜聞』より。訳はコンプリート・シャーロック・ホームズPage. 2による。

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