スキップしてメイン コンテンツに移動

糸操り人形の繰り糸 - アリアドネの弾丸

アリアドネの弾丸『アリアドネの弾丸』を読んだ。『チーム・バチスタの栄光』から始まった〈田口・白鳥シリーズ〉の第五作。

大筋は変わっていない。病院内で起きた殺人事件に田口が巻き込まれ、そこに白鳥が現れ、Ai(オートプシー・イメージング)[1]の力を借りながら事件を解決するという流れになっている。

大筋だけ見るとミステリィのようだし、実際ミステリィ色も濃いのだけれど、並行して繰り広げられる司法と医療の駆け引きも負けず劣らずスリリング。後半、田口達が厳しい時間的制約の中、警察の強制捜査およびその報道を阻止しようとし始めたら先が気になって一気に読んでしまった。

報道の恐ろしさは、この台詞に象徴されている。警察の見解に引きずられる田口に告げられる、白鳥の言葉だ。
「いいかい、これこそヤツらのやり口なんだ。単調に、圧倒的な物量戦で、あたかも事実であるかのように偏向された情報が、無批判に垂れ流される。それは“操作”ですらない。ただ膨大な情報の海で溺れさせ、人々の判断力や感覚を狂わせてしまう。そんなもので、自分を見失ってどうするのさ、田口センセ」

フィクションだと『ゴールデンスランバー』、ノンフィクションだと『戦争広告代理店』『こうして世界は誤解する』を思い出す。どれも「いつの間にか何となくそう思われてしまっている」ことの危うさが描かれている。
[1] 死亡時画像診断のこと。死因不明社会に詳しい。



このブログの人気の投稿

北へ - ゴールデンカムイ 16

『ゴールデンカムイ 15』、『〃 16』を読んだ。16巻を読み始めてから、15巻を買ったものの読んでいなかったことに気がつく。Kindle版の予約注文ではままあること。 15巻は「スチェンカ・ナ・スチェンク」、「バーニャ(ロシア式蒸し風呂)」と男臭いことこのうえなし。軽くWebで調べてみたところ、スチェンカ・ナ・スチェンク (Стенка на стенку) はロシアの祭事マースレニツァで行われる行事のようだ[1]。それなりになじみ深いものらしく、この行事をタイトルに据えたフォークメタルStenka Na StenkuのMVが見つかった。 16巻では杉元一行は巡業中のサーカスに参加することになる。杉元と鯉登の維持の張り合いが、見ていて微笑ましい。鯉登は目的を見失っているようだが、杉元もスチェンカで我を失っていたので、どっこいどっこいか。なお、サーカス/大道芸を通じた日露のつながりは、実際にもこのような形だったようだ[2]。 個々のエピソードから視線を上げて、全体の構図を眺めてみると、各勢力がすっかり入り乱れている。アシㇼパは尾形、キロランケ、白石とともにアチャの足跡を辿り、そのあとを鶴見のもとで家永の治療を受けた杉元が鯉登、月島を追っている。今更だけれど、杉元やアシㇼパは、第七師団と完全に利害が衝突していると考えていないはずだった。一方で、土方一味も入墨人皮を継続。むしろ彼らの方が第七師団との対立が深刻だろう。さらに北上するキロランケはまた別の目的で動いているようだけれど、なんで尾形も一緒なんだっけ? 『進撃の巨人』に引き続き、これもそろそろ読み返す時期か。 [1] 5つの暴力的な伝統:スラヴ戦士のようにマースレニツァを祝おう - ロシア・ビヨンド [2] ボリショイサーカスの源流は、ロシアに渡った幕末日本の大道芸人たちにあった 脈々と息づく「クールジャパン」 | ハフポスト

戦う泡沫 - 終末なにしてますか? もう一度だけ、会えますか? #06, #07

『終末なにしてますか? もう一度だけ、会えますか?』の#06, #07を読んだ。 『終末なにしてますか? もう一度だけ、会えますか?』の#06と#07を読んだ。#06でフェオドールの物語がひとまずは決着して、#07から第二部開始といったところ。 これまでの彼の戦いが通過点のように見えてしまったのがちょっと悲しい。もしも#07がシリーズ3作目の#01になっていたら、もう少し違って見えたかもしれない。物語の外にある枠組みが与える影響は、決して小さくない。 一方で純粋に物語に抱く感情なんてあるんだろうか? とも思う。浮かび上がる感情には周辺情報が引き起こす雑念が内包されていて、やがて損なわれてしまうことになっているのかもしれない。黄金妖精 (レプラカーン) の人格が前世のそれに侵食されていくように。

リアル・シリアル・ソシアル - アイム・ノット・シリアルキラー

『アイム・ノット・シリアルキラー』(原題 "I Am Not a Serial Killer")を見た。 いい意味で期待を裏切ってくれて、悪くなかった。最初はちょっと反応に困るったけれど、それも含めて嫌いじゃない。傑作・良作の類いではないだろうけれど、主人公ジョンに味がある。 この期待の裏切り方に腹を立てる人もいるだろう。でも、万人受けするつもりがない作品が出てくるのって、豊かでいいよね(受け付けないときは本当に受け付けないけれど)。何が出てくるかわからない楽しみがある。