「『イノベーションのDNA』を読んだよ」
「『イノベーションのジレンマ』で有名なクリステンセンさんの著書ですね」
「うん。『イノベーションへの解』に続く3作目」
「それは読んでないですよね」
「解なんてあったら苦労しないよな、と懐疑的なので」
「なのにどうして本書を読もうと思ったんですか?」
「うーん、気分転換? 最近、読んだのが小説かプログラミンに関する本ばかりだと気がついて」
「それで理論寄りだろう、とこの本を読んだわけですね」
「なんだけれどね。『ジレンマ』よりずっと実践・事例寄りで、期待とは違っていたよ」
「あてが外れましたね」
「さすがにそこらの実用書よりずっとしっかりと調査をしているのだけれど、欲求不満。『ジレンマ』ではジレンマに陥ってしまう理由について筋道をつけていたところが面白かったのだけれど、この『DNA』にはそれがない」
「じゃあ代わりに何があったんですか?」
「インタビューやアンケートに基づいた、イノベータ度テストやイノベータ度を上げるための習慣。イノベータであることを、この本では〈関連づけ思考〉ができることとしていて、そのために次の4つの力が必要だと言っている」
- 質問力
- 観察力
- ネットワーク力
- 実験力
「こういう言い方はなんですけれど、新書のタイトルみたいですね」
「実際、同じタイトルの新書あったはず。ともあれ、これらは独立じゃない。実際、分析したところ、相関係数0.5以上で有意な相関があったみたい。元の論文まではあたっていないから、有意水準は分からないけれど」
「独立じゃないと何なんですか?」
「多分、隠れた変数があるんじゃないかな? 例えば、図1-1だと〈現状に異議を唱える〉と〈リスクをとる〉から、この4つに矢印が伸びている。でもこれって〈質問力〉や〈実験力〉と何が違うのかな?」
「言語ゲームになってきていませんか?」
「言われてみれば。考え過ぎかも。結局、これらが正しいとしても、イノベータとその候補者がどうしてこういう行動を取るかは分からないままなわけだし」
「イノベータって、アーリアダプタよりさらに少ないごく一部なわけですよね」
「うん。変化を積極的に受け入れるアーリーアダプタよりも少ないし、大半の人はそもそも変化なんて望んでいない」
「統計的には外れ値に相当しそうな人たちの傾向なんて、分析できるんですかね」
「そうだよねー、むしろ傾向に逆らうのがイノベータって感じだもんなぁ。でもだったら、本書で紹介されている本人が書いた『発想する会社!』とかの方が」
「煮え切らない感想ですね」