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陰翳と手触り

陰翳礼讃 東京をおもう (中公クラシックス (J5))『陰翳礼讃 東京をおもう』を読んだ。

本書は谷崎潤一郎のエッセイ集。 次の11篇で構成されている。『陰翳礼讃』が読みたくて、勢いで通読した。
  • 陰翳礼讃
  • 懶惰の説
  • 恋愛及び色情
  • 都市情景
  • 旅のいろいろ
  • 藝談
  • いわゆる痴呆の藝術について
  • 岡本にて
  • 私の見た大阪及び大阪人
  • 東京を思う
全体的には、面倒臭な人そうだなぁ、という印象。独特の評価軸を持っていたのだろうな、と思う。

一番面白かったのは、やはり『陰翳礼讃』。次の一文がとてもしっくり来る。
ぜんたいわれわれは、ピカピカしているものを見ると心が落ち着かないのである。
ピカピカしているものはもちろん、自分はツルツルしているものもどうも苦手。

そう言えば、Infobar A01でHACCAとCHOCOMINTで迷ったあげく、HACCAを選んだ決め手は表面の加工だった。

CHOCOMINTが光沢塗装なのに対して、HACCAはマット塗装。カバーを付けて使っているので、実質的には大した影響はないのだけれど、こういう些細な違いが、揺れ動いている気分を一方に倒すことがある。

そう言えば、色々とネットで買うようになったけれど、手に持って使う道具は、滅多に買わない。これは、手触りを気にしているからだと思う。視覚情報・聴覚情報はデジタル化されているし味覚情報はレビューが充実しているけれど、触覚情報は今のところWebではほとんど得られない。

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