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稲妻とまあまあ - ゴールデンカムイ 11

『ゴールデンカムイ 11』を読んだ。

まず目に飛び込んでくるのが、表紙を飾るアシㇼパさん。凜としつつも可憐でもあり息を呑む。それなのに本編では顔芸を見せてくれたり「オソマ」を連呼したりする。吹き出す。

本編に目を向けると、尾形の掘り下げが印象的だった。食事中にアシㇼパさんが何の気なしに言った言葉がキッカケに、彼の過去が描かれる。唐突と言えば唐突。でも、味覚というプリミティヴな感覚は、ときに思いがけない古い記憶を蘇らせる引き金になると思うので、そういうものだったと得心もできる。尾形が好きなキャラだから許せているというのもあるかもしれないけれど。

ただ、それも痛し痒しで本筋がほとんど進まない。尾形の話を除くと、囚人列伝に紙幅の大半が割かれている。登場するのは、稲妻強盗と蝮のお銀の夫妻と、姉畑支遁。ざっとググって分かった範囲だけれど、稲妻強盗・坂本慶一郎のモチーフは坂本慶次郎、姉畑支遁は『シートン動物記』のアーネスト・トンプソン・シートンだろう。蝮のお銀は分からなかった。

稲妻強盗と蝮のお銀の夫妻は、ボニー&クライドを引き合いに出していて、ピカレスク・ロマンとしてよかった。モチーフであろう坂本慶次郎も犯罪者だったので、違和感もない。

一方で、姉畑支遁が……。幼少のみぎりに『シートン動物記』を読んでいるので、強烈な違和感が。モチーフのシートンとのギャップが大きいのは、本作の囚人としてのキャラ付けとして我慢する。でもそのキャラ付けが。直接的過ぎやしないか……。かえって冷静になってしまう。

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北へ - ゴールデンカムイ 16

『ゴールデンカムイ 15』、『〃 16』を読んだ。16巻を読み始めてから、15巻を買ったものの読んでいなかったことに気がつく。Kindle版の予約注文ではままあること。 15巻は「スチェンカ・ナ・スチェンク」、「バーニャ(ロシア式蒸し風呂)」と男臭いことこのうえなし。軽くWebで調べてみたところ、スチェンカ・ナ・スチェンク (Стенка на стенку) はロシアの祭事マースレニツァで行われる行事のようだ[1]。それなりになじみ深いものらしく、この行事をタイトルに据えたフォークメタルStenka Na StenkuのMVが見つかった。 16巻では杉元一行は巡業中のサーカスに参加することになる。杉元と鯉登の維持の張り合いが、見ていて微笑ましい。鯉登は目的を見失っているようだが、杉元もスチェンカで我を失っていたので、どっこいどっこいか。なお、サーカス/大道芸を通じた日露のつながりは、実際にもこのような形だったようだ[2]。 個々のエピソードから視線を上げて、全体の構図を眺めてみると、各勢力がすっかり入り乱れている。アシㇼパは尾形、キロランケ、白石とともにアチャの足跡を辿り、そのあとを鶴見のもとで家永の治療を受けた杉元が鯉登、月島を追っている。今更だけれど、杉元やアシㇼパは、第七師団と完全に利害が衝突していると考えていないはずだった。一方で、土方一味も入墨人皮を継続。むしろ彼らの方が第七師団との対立が深刻だろう。さらに北上するキロランケはまた別の目的で動いているようだけれど、なんで尾形も一緒なんだっけ? 『進撃の巨人』に引き続き、これもそろそろ読み返す時期か。 [1] 5つの暴力的な伝統:スラヴ戦士のようにマースレニツァを祝おう - ロシア・ビヨンド [2] ボリショイサーカスの源流は、ロシアに渡った幕末日本の大道芸人たちにあった 脈々と息づく「クールジャパン」 | ハフポスト

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『終末なにしてますか? もう一度だけ、会えますか?』の#06, #07を読んだ。 『終末なにしてますか? もう一度だけ、会えますか?』の#06と#07を読んだ。#06でフェオドールの物語がひとまずは決着して、#07から第二部開始といったところ。 これまでの彼の戦いが通過点のように見えてしまったのがちょっと悲しい。もしも#07がシリーズ3作目の#01になっていたら、もう少し違って見えたかもしれない。物語の外にある枠組みが与える影響は、決して小さくない。 一方で純粋に物語に抱く感情なんてあるんだろうか? とも思う。浮かび上がる感情には周辺情報が引き起こす雑念が内包されていて、やがて損なわれてしまうことになっているのかもしれない。黄金妖精 (レプラカーン) の人格が前世のそれに侵食されていくように。

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