映画『ビッグ・アイズ』 ("Big Eyes") を観た。監督がティム・バートンさんだったので。「ある作品の嘘を知ったとき、どう受け止め直したものか」なんて疑問が湧いてくる。
以降の流れはこのとおり。冒頭の疑問については6に書いた。あとはいろいろと興味が湧いて調べたらおもしろかったことを。
ウォルター・キーンのような、他人の作品なのに自分の作品だという嘘偽りをはばからない人は、いつの時代にもいるのだろうと思う。2014年の日本でも、佐村河内守さんのだとされていた曲は、新垣隆さんによる代作だったと明るみに出た。これくらい多くの人に取り沙汰されることは少なくても、Twitterでタイムラインを眺めていると盗作 (いわゆるパクツイ) が日常的に流れてくる。違いを感じるのは、本当の作者が情報を発信する機会や、作品の受け手が検証する方法が、格段に増えていること。検証は本当に容易になった。少なくともWeb上の文章と画像はGoogleで簡単に検索できる。おかげで検証結果も見つけやすくなっている。
もちろん、こういう嘘が減るのに越したことない。けれど、本作で描かれているウォルター・キーンが、素人目には強迫観念に駆られているように見えてきて、悪いことだと思えない人や止めたくても止められない人もいるのかな、と想像する。
ともあれ、嘘が明るみに出たときに「作品をどう受け止め直すか」は、受け手に任されているわけで。腫れ物に触るようにしか扱わなくなっちゃうのは、本当の作者にとっても作品にとっても幸せなことだとは思えなくて。でも、それまでと同じ受け止め方をするのも、無理な心情で。どうしたものか。
以降の流れはこのとおり。冒頭の疑問については6に書いた。あとはいろいろと興味が湧いて調べたらおもしろかったことを。
- あらすじ
- 同監督の他作品
- 大きな目
- 音楽は続くよ
- 主演について覚書
- 嘘か真か、嘘と真か
1. あらすじ
この映画は、1960年代にアメリカのアート界で起こった事件に基づいている。事件の中心が〈ビッグ・アイズ〉と呼ばれた絵画作品群。自分は本作を通して初めて知ったのだけれど、当時アメリカでブームになったらしい。あのアンディ・ウォーホルが賛辞を寄せていて、本作冒頭でその言葉が紹介されている。問題になったのは、その作者。ウォルター・キーンだと思われていたのが、実際に描いていたのは妻マーガレット・キーンだったという話。2. 同監督の他作品
ティム・バートン監督の嘘がテーマの映画ということで、『ビッグ・フィッシュ』を思い出す。タイトルも似ているし。でも、嘘の目的が真逆を向いている。それよりも、感想やレビューを読んでいたら『エド・ウッド』を挙げている人が多かった。実話に基づいているところが共通しているとのこと。未見なので観たい映画リストに入れておこう。3. 大きな目
ところで、この〈ビッグ・アイズ〉、名前どおり大きな目が特徴。ティム・バートンが描くイラストもそうなので、影響されているんだろうな。日本のアニメやマンガに慣れているので違和感ないけれど、当時のアメリカでコレは目を引きそう。そう言えば、ディズニー映画の女の子もだんだん目が大きくなっている気が[1][2][3]。例としてディズニープリンセスを映画公開順に並べてみる。〈ビッグ・アイズ〉が知られたのが1960年代なのを踏まえて、オーロラ姫とアリエルを比べると顕著な差が見てとれる。ただし、間が30年も空いているから、ディズニープリンセス以外の映画からも補間した方が面白いかもしれない。- 『白雪姫』の白雪姫(1937)
- 『シンデレラ』のシンデレラ(1950)
- 『眠れる森の美女』のオーロラ姫(1959)
- 『リトル・マーメイド』のアリエル(1989)
- 『美女と野獣』のベル(1991)
- 『アラジン』のジャスミン(1992)
- 『塔の上のラプンツェル』のラプンツェル(2010)
4. 音楽は続くよ
絵の話はこれくらいにして、作中で使われている曲についても。まずは〈ビッグ・アイズ〉が最初に飾られたバーで演奏していたCal Tjader。マリンバの音もするジャズだったので、Martin Denny[5]を思い出したので調べてみたら、一緒に演奏した曲が見つかった[6]。ちなみに作中で演奏されていたのは、これらの曲では無くて"A Minor Goof"。その酒場では、後のシーンで"Moanin'"も演奏されていた。いつ聴いても出だしから最高にかっこいい。今まで、年代を気にしてこなかったけれど、この頃のジャズに興味が湧いてきた。一方、現役のアーティストに目を向けると、Lana Del Reyの"Big Eyes"が。レトロな雰囲気も備えつつも、美しくて悲しくて、震えと鳥肌が。5. 主演について覚書
人の話も少し。すぐ忘れるので覚書として。マーガレット・キーンを演じるエイミー・アダムスさんは、『メッセージ』のルイーズ・バンクス博士役。あとDCEU映画にもスーパーマンの恋人ロイス・レイン役で出演。夫(ウォルター)向ける眼差しの変化が印象的だった。ウォルター・キーンを演じるクリストフ・ヴァルツさんは、『イングロリアス・バスターズ』のハンス・ランダ大佐役。同じタランティーノ監督映画の『ジャンゴ つながれざる者』にも。あの含みを感じさせる笑顔がとても恐ろしい。6. 嘘か真か、嘘と真か
最後にふたたび嘘について。ウォルター・キーンのような、他人の作品なのに自分の作品だという嘘偽りをはばからない人は、いつの時代にもいるのだろうと思う。2014年の日本でも、佐村河内守さんのだとされていた曲は、新垣隆さんによる代作だったと明るみに出た。これくらい多くの人に取り沙汰されることは少なくても、Twitterでタイムラインを眺めていると盗作 (いわゆるパクツイ) が日常的に流れてくる。違いを感じるのは、本当の作者が情報を発信する機会や、作品の受け手が検証する方法が、格段に増えていること。検証は本当に容易になった。少なくともWeb上の文章と画像はGoogleで簡単に検索できる。おかげで検証結果も見つけやすくなっている。
もちろん、こういう嘘が減るのに越したことない。けれど、本作で描かれているウォルター・キーンが、素人目には強迫観念に駆られているように見えてきて、悪いことだと思えない人や止めたくても止められない人もいるのかな、と想像する。
ともあれ、嘘が明るみに出たときに「作品をどう受け止め直すか」は、受け手に任されているわけで。腫れ物に触るようにしか扱わなくなっちゃうのは、本当の作者にとっても作品にとっても幸せなことだとは思えなくて。でも、それまでと同じ受け止め方をするのも、無理な心情で。どうしたものか。
[1] ディズニープリンセスの大きな瞳に隠されたアニメの歴史とは? - GIGAZINE
[2] The Psychology of Giant Princess Eyes - The Atlantic ([1]の元記事その1)
[3] If Disney Princesses Had Normal-Size Eyes ([1]の元記事その2)
[4] 町山智浩 ティム・バートン監督映画 ビッグ・アイズを語る
[5] Martin Dennyを知ったのは、先日の星野源Live Tour 2017『Continues』で『Firecrackers』がカバーされていたからなので、本作を公開直後に観ていたらでは何とも思わなかったはず。そういう意味では、いいタイミングで観た。
[6] Spotifyで"Martin Denny & Cal Tjader"というドンピシャのプレイリストが見つかった。The Enchanted Sea, Exotique Bossa Nova/Quiet Village Bossa Nova (Medley), Exotica, Eden's Islandの4曲が登録されている。
[2] The Psychology of Giant Princess Eyes - The Atlantic ([1]の元記事その1)
[3] If Disney Princesses Had Normal-Size Eyes ([1]の元記事その2)
[4] 町山智浩 ティム・バートン監督映画 ビッグ・アイズを語る
[5] Martin Dennyを知ったのは、先日の星野源Live Tour 2017『Continues』で『Firecrackers』がカバーされていたからなので、本作を公開直後に観ていたらでは何とも思わなかったはず。そういう意味では、いいタイミングで観た。
[6] Spotifyで"Martin Denny & Cal Tjader"というドンピシャのプレイリストが見つかった。The Enchanted Sea, Exotique Bossa Nova/Quiet Village Bossa Nova (Medley), Exotica, Eden's Islandの4曲が登録されている。