「言っていることとやっていることは、しばしば食い違うよね」
「有言実行は言うほど簡単ではないですね」
「目の前の誘惑に簡単に流されちゃうんだよね」
「うん、すぐ手に入る目の前のメリットを過大評価するバイアスがある。でも、それはまだ良いと思うんだ」
「もっと悪いことがあると?」
「誘惑に負けたことが記憶に残る分、少しマシじゃないかと。負け癖が付くというデメリットこそあるけれど。それより、言っていることとやっていることが食い違っていても、気にしない方がどうしようもないかなぁ、と」
「表明選好と顕示選好の話ですね」
「それもある。案外、自分で自分が何が好き分かっていないものらしいね。それから、もう一つある」
「何ですか?」
「選択が、目的に適っているとは限らないことがあるよなぁ、と。『となりの車線はなぜスイスイ進むのか?』で読んだ話なんだけれど、自動車の数をコントロールすることで渋滞を減らすために、高速への入り口で制限をかけたんだって」
「失敗したんですか?」
「いや、それで実際に到着時間は短くなったらしいよ」
「良かったじゃないですか」
「でも、止めちゃったんだって。待たされる人からのクレームが絶えなくて」
「確かに待たされるのは嫌ですけれど、それで到着が遅くなるなら本末転倒かと」
「頭では理解できるけれど、優雅な気分で待てるかと言うと」
「うーん、難しそうですね」
「そう考えると、言っていることにどれだけの意味があるのかなぁ、と。その上、個人レベルでこれなんだから、みんなが申し合わせた合意にどれだけ意味があるのかなぁ、と」
「そういう大きな答えを探すよりも、より良い主張で合意するためにはどうしたらいいか考える方が、建設的じゃないですか?」
「そうか、そうだね。それが『正義のアイディア』や『貧乏人の経済学』のスタンスだった、言われてみると」