パニックミステリー小説『竜と流木』を読んだ。できるだけリスク管理していたうえで、想像を越える形で事態が悪化していく過程が描かれていて、息が詰まるような恐怖を味わえる。
太平洋に浮かぶ美しい島ミクロ・タタに固有の両生類ウアブを、絶滅の危機から救うために隣のメガロ・タタに移すところから物語が始まる。
端的に書くとこのとおりなのだけれど、考えなしに捕まえて別の場所に放すわけではない。些細なミスがきっかけになるパニックものもあるけれど、本作はそうではない。単体で人間への危害がないと判断している生物を、メガロ・タタの環境への影響を可能な限り小さくした形で、保護のために持ち込み管理しているにも関わらず、被害が出てしまう。
原因の特定の困難さ、判明してからの対策のあてのなさ、さらには問題が他国まで拡散するシナリオまで、現実味をもって語られており、主人公たちの感じているであろう閉塞感が自分にまで重くのしかかってくる。複数の要因――ウアバの生態、ミクロ・タタとメガロ・タタの地理的条件、現地住民と観光客の経済事情――が重なっているため、途方に暮れてしまう。
そこは物語なので、最後にきちんとオチがあるのだけれど、希望と不安が同時に感じられる幕引きだった。絶妙。