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劇場要素ありボイロ実況動画のおもしろいところ

ニコニコ動画の投稿者/視聴者として、ボイロ系実況動画のこんなところがおもしろいという話をしているつもり。で、言いたいのは「劇場/茶番が多いボイロ実況もっと栄えて」。

おもしろさの分析に分析美学の成果を援用して分析してみた。援用元は『ビデオゲームの美学』および『ゲームプレイ/ヤの美学:プレイ、プレイヤ、ペルソナ』

待って。ブラウザバック前に要約だけ読んでいって。

要約

1) ゲームプレイ動画の作成および視聴の対象として、映像化・ノベライズ・コミカライズあるいはテーブルトークRPGリプレイと同じように、ゲームプレイ動画の作者による創作が存在する。

2) ゲームプレイ動画作者による創作に固有の特徴は、それがゲームシステム内で実現されており、それを視聴者が了解していることである。

3) 創作を含むゲームプレイ動画と相性がよいジャンルは、ボイロ系実況プレイ動画である。

劇場/茶番が多いボイロ系動画もっと栄えて。

1. モチベーション

「そういう風に楽しめるならVOICEROID実況動画を観てみよう、投稿してみよう」と思う人がいてくれたらいいなと思う。

ではどう推せばいいのか?と考えたとき、自分は、もっぱらVOICEROIDやCevioの実況動画を観ていて、その中でも好き嫌いがある。好きな動画に共通の特徴を抽出し、投稿や観賞でどこを楽しんでいるのか言語化(記号化)してみよう、という試みがこのエントリ。

直接の必要性を越えて記号を使うのは、実践ではなく理解のためである。 出典: 『芸術の言語』

ついでについでに、次の動画をどうしようか悩んでいるので、方向性(の選択肢)を考える材料にしたい。

2. 分析に用いる用語

先行論文はリサーチしていないが、最近読んだ『ビデオゲームの美学』および『ゲームプレイ/ヤの美学:プレイ、プレイヤ、ペルソナ』から、援用する用語を導入する。このエントリよりおもしろいので未読の人は先に読もう。とは思うが、忘れっぽい自分のためにも必要な用語をここで導入しておく。

2.1 ゲーム内の情報

『ビデオゲームの美学』から、ゲーム内で提示される情報の分類を導入する。一つの情報源が双方を提示することが多いが、区別しておくと、ゲーム内の設定とゲームシステムを分けて評価できる。

  • 〈ゲーム的内容〉:ゲームメカニクス(ゲームシステム)に関連する内容。
  • 〈虚構的内容〉:ゲームメカニクスには関連せず、ゲーム内の虚構世界に関連する内容。

「Monster Hunter」シリーズを使って例を挙げる。体力ゲージはゼロになると力尽きることを伝える〈ゲーム的内容〉。装備の説明文やステージ背景はゲームシステムとは関連しない〈虚構的内容〉。各種装備は双方を含む。攻撃力・防御力・スキルを増減させとともに、プレイヤーキャラクターの外見も変更するからだ。ただし「Monster Hunter World」で導入された重ね着装備は性能に影響しないので〈虚構的内容〉になる。

2.2 ゲーム内/外プレイヤペルソナ

『ゲームプレイ/ヤの美学』からは〈ゲーム内プレイヤペルソナ〉、〈ゲーム外プレイヤペルソナ〉を導入する。ここでいう〈ペルソナ〉は

ある実際のひとの何らかの現れ(実際のそのひとが目の前に現れた姿、写真、映像、音声などにおいてその人が現れた姿)

実際の人とその現れ、それから架空のキャラクタの関係については「バーチャルユーチューバの三つの身体:パーソン・ペルソナ・キャラクタ」を参照した。

  • 〈ゲーム内プレイヤペルソナ〉:ゲーム内に出てくるプレイヤのペルソナ。必然的に動画内にも現れる。
  • 〈ゲーム外プレイヤペルソナ〉:ゲーム外かつ動画内には存在するプレイヤのペルソナ。
おおむねプレイヤの操作対象をとおして観られるのが〈ゲーム内プレイヤペルソナ〉。典型的にはプレイヤキャラクタの動き。シミュレーションやストラテジーでのカーソル選択あるいはFPSでの視線なども含む。

YouTuberやVTuberの〈ゲーム外プレイヤペルソナ〉は想像しやすいだろう。だが、本エントリが関心とする話声合成ソフトを用いたゲームプレイ動画に現れるのは、「実際のひとの何らかの現れ」ではないと考えられる。これについて「3. 話声合成ソフトによるゲームプレイ動画の分析」で書く。

3. 話声合成ソフトによるゲームプレイ動画の分析

ようやく話声合成ソフトによるゲームプレイ動画の特徴の分析に入る。この章が本エントリを通して考えたこと。

3.1 話声合成ソフトのキャラクタ

ここでいう話声合成ソフトは、予め用意したテキストから話声を音声ファイルとして出力してくれるソフトウェアを指す。ゲームプレイ動画において、よく使われているのは「ゆっくり実況プレイ」タグのAquesTalk系のSoftalk/棒読みちゃんだろう。そこに「VOICEROID実況プレイ」タグのVOICEROID、「Cevio実況プレイ」タグのCeVIO Creative Studio、ガイノイドTalkなどが続く。

ここで着目すべきは、VOICEROID動画と同列に紹介されるソフト群(以下ボイロ系ソフト)が存在し、そこにAquesTalk系ソフトが含まれていないことである。たとえば、動画「VOICEROID実況作りたいけどどの子を選べばいいかわからない悩める紳士淑女用の解説動画」で紹介されているのは、VOICEROID、CeVIO、ガイノイドTalk、音街ウナTalkであり、ニコニコ動画内企画VOICEROID非実況動画祭の対象もこれらのソフトである[1]。

ここでは、ボイロ系ソフトとAquesTalk系ソフトを分けるのは公式キャラクタの有無だと考える。ボイロ系ソフトに対して、投稿者の選択基準も視聴者の期待もキャラクタだというのは、先ほどの解説動画やそれへのコメントから推察される。

他に考えられる分類基準についても検討してみる(そしてスコープアウトする)。合成エンジンではCeVIOが含まれることが説明できないし、それありきで選ぶ投稿者/視聴者も少ないだろう。また、歴史的経緯(ニコニコ動画のカテゴリや投稿者およびユーザによるタグ付けの変化)も影響している[2]が、それを意識しない投稿者/視聴者も、この分類結果を受け入れているように見える。

投稿者視点で公式キャラクタが与える大きな影響は、プレイ動画の幅が広がることだろう。ゲーム内プレイヤペルソナ/ゲーム外プレイヤペルソナとは距離があるキャラクタを、ゲーム内/外に持ち込める。ゲーム内プレイヤのみならず、NPCやゲーム内虚構世界に存在しないキャラクタが追加されることもある。プレイヤキャラクタが出てこないシム系のゲーム(Cities: Skylinesなど)のプレイヤキャラクタとして出したり、NPCのセリフをキャラクタにあてさせたり、1人称視点プレイで複数キャラクタにかけあいさせたり、ターン性対戦ゲームで複数のキャラクタに対戦させたりできるようになる。

このような動画では、視聴者はゲーム内プレイヤの行為が現実の人=投稿者ではなく、そのキャラクタに帰するものとして観賞しているように見受けられる。たとえば「(編集者さん)の(キャラクタ)好き」というようなコメントとして残る。あるいは、ゲーム内キャラクタの持ち込んだ話声合成ソフトのキャラクタがハマり役かどうかについて観賞されることもある。

3.2 話声合成ソフトを用いたゲームプレイ動画の特徴

話声合成ソフトを用いたゲームプレイ動画は、ニコニコ動画において「~~実況プレイ」としてタグ付けされている。しかし、実態は実況ではなく、あくまで実況風プレイであり、その特徴は配信およびその録画と大きく異なる。

  • プレイ録画は配信の録画ではなく、動画用の録画が使われている
  • ゲーム外音声は字義通りの実況ではなくプレイ録画に対して編集で追加されている
  • カット・倍速などの編集が受容されている(RTAを除く)。たとえばゲーム内構築物の制作過程のカットは「ました工法」と呼ばれている。
  • ゲームプレイ画面の上への画像・動画のインポーズ、BGMの差し替え、効果音の追加など演出のための編集が受け入れられている
技術的制約(音声認識ソフトの精度や、ボイスチェンジャーによる加工範囲)がなくなれば話声合成ソフトを使った配信も可能になるだろうが、たとえそうなったとしてもこのスタイルは簡単にはなくならないだろう。この制作スタイルは映像作品のスタイルと酷似している。

『ゲームプレイ/ヤの美学』では、プレイ観賞と映画鑑賞に似た部分があるとしつつも、

プレイ観賞は、一定程あらかじめ綿密に構築された物語というよりも、個別的に生成されるゲームプレイを鑑賞する点で映画鑑賞とは似ておらず、

とある。しかし、(ごくごく一部ではあるが)最終回で「いい映画だった」と視聴者にコメントされるVOICEROID実況プレイシリーズ[3]や、(認知度は低いが)「VOICEROID遊劇場」タグが存在する。また、一部の投稿者は、撮りたいプレイを録画するためにテストプレイまでしている。つまり、話声合成ソフトによるゲームプレイ動画においては、映画ほど綿密ではないかもしれないがある程度構築された、個別的な生成されたとも言い難いゲームプレイを制作/観賞する層がいると言える。

これが比較的容易な話声合成ソフトは、公式に性格付けされた人間型のキャラクタの声として展開されているボイロ系話声合成ソフトだろう。

3.3 他のジャンルとの比較

話声合成ソフトによるゲームプレイ動画の、特にボイロ系実況動画の特徴を挙げてみたので、その固有性について考えてみる。何か固有の魅力的な特徴があれば、ボイロ系実況動画は他ジャンルと一緒に続いていくことだろう。いくといいな。

固有で魅力的な特徴は、物語が全てゲームメカニクスの上で実現され、それを鑑賞者が了解していることである。ゲームを原作にしてもゲームシステムを持たない映画・マンガ・小説では、必ずしも了解できない。実際、ゲーム原作の作品で、キャラクタがゲームでは不可能な動きをして敵を倒したり、オリジナルのアイテムやスキルが出てくる(そしてそれにがっかりする)のは珍しくない。これらを虚構的内容としてみると、明らかにゲーム内虚構世界を逸脱している。しかし、ゲームプレイ動画なら(バグの応用やチートがなければ)それはありえない。すべて自分と同じゲームの中で起こっている出来事である。

そして構造上、もっとも類似しているのは、ゲーム原作の映画・マンガ・小説ではなく、テーブルトークRPGのリプレイ作品だろう。映画・マンガ・小説はゲームメカニクスを持たないし、その物語は個別のゲームプレイと切り離されている。そこで活躍しているのはゲームのプレイヤーというより単線的な物語の登場人物のように見える。一方で、TTRPGのリプレイ作品はルールブックとゲームマスターの裁量の上で行われた、個別のゲームプレイとして見える(と思う。実はTTRPGをプレイしたことがない)。ビデオゲームとTTRPGの比較は『ビデオゲームの美学』を読もう。

5. その他雑感

まとめはありません。本当に雑感だけです。

『ビデオゲームの美学』、『ゲームプレイ/ヤの美学:プレイ、プレイヤ、ペルソナ』でゲームとゲーム動画について考えてみたところ、とても便利です。ありがとうございます。

それで好きなボイロ実況動画について考えてみたら、『ゲームプレイ/ヤの美学:プレイ、プレイヤ、ペルソナ』が挙げるゲームプレイ鑑賞の特徴にもう一つ足したくなったという話でもあります(ニッチだけど、だからこそもっと栄えて欲しい)。

(1) ゲームプレイがプレイ鑑賞者の観賞の対象となる。
(2) プレイヤがプレイ鑑賞者の観賞の対象となる。
(3) ゲーム画面が共有され、プレイヤがみているものとおおむね同様の情報をプレイ鑑賞者が共有する
(4) 場合によっては、プレイ鑑賞者はプレイヤとのインタラクションが可能である

これの(2)と(3)の間に、 プレイヤとプレイ鑑賞者のあいだに実際の人とのつながりを前提とするペルソナではなく、ゲーム外キャラクタがいる場合もあると言いたい。

ところでこのエントリを書くにあたって検索していたら、逆にVTuberが現実の人とのつながりを薄くしようとしたケース魂、器、ペルソナ─ VTuber キズナアイの「分裂現象」が投げかけるもの - KAI-YOU.netも見つかって、おもしろかった。が、VTuberの動画はどうにも苦手なので、記事を読んだまででストップ。

思いつきとしては、特徴 (4) については、編集や観賞も含めて『ビデオゲームの美学』の〈時間の3層モデル〉(統語論的時間/ゲーム内時間/虚構時間)で形式化できないか? とは思いました。実況プレイ動画だと主なインタラクションがまたいだコメント返しという形式で行われるので、時間軸で整理できないか? という発想です。ですが、コメントされれば嬉々として読むけれど、コメ返し頑張ると編集大変になるので、(投稿者としての)自分には合わない気がするので深追いは止めました。

改めて読み直していたら、エントリはボイロ実況投稿者/視聴者の視点からボイロ系実況というジャンルの批評として読める可能性に気がつきました。そっちの視点で書き直した方が、モチベーションに直結しているけれどそれより動画投稿した方がいい気もします。二次創作は自給自足!

とは言えこういう動画に詳しい人もし読んでたらお勧め教えてください。

以上。

[1] ニコニコ大百科を読むと厳密にはAiTalkとして他ソフトとPepperが存在するが最新の第6回では投稿実態がなかったので無視してよいと思う。
[2] ニコニコ大百科の「VOICEROID実況プレイ」タグへのレスを観ると、2017年頃にかなりの混乱が見て取れる。

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