「今年読んだ本は256冊だった」
「ちょうど28冊ですね」
「キリがよい」
「内訳は以下のとおりです。6年数え続けて単調増加していますが、率直な疑問として暇なんですか?」
「体感的にはむしろ読む時間が減っていると思っていたので、この結果は自分としても理解に苦しむ。これまでは比較的短時間で読める漫画が下駄になっていたと説明できるけれど、今年は小説が増えているから謎は深まるばかり」
「新書も多めですしね」
「ね」
「概観するにはこれくらいにして、印象的だった本を振り返ってみましょうか」
「振り返ってみたら〈来歴〉、〈伝承〉、〈継承〉、〈後継〉とかそんな言葉で形容される関心が浮き上がってきたので、それに添って」
「うわ、硬い」
「そんな大した話ではないよ」
「はあ」
◆
「まず挙げるのは小説〈名探偵の証明〉シリーズ。老いた名探偵・屋敷啓次郎と、その名探偵に憧れてついには名探偵となった少女・蜜柑花子の物語。外形的には探偵小説だったけれど、描かれているのは英雄叙事詩だった」
「蜜柑さんに入れ込んでいましたね」
「こんなに人のよい名探偵、珍しいと思う。名探偵って、だいたいどこか浮世離れしたキャラクタとして描かれるよね」
「TVドラマ『SHERLOCK』のホームズさんなんかそうでしたね」
「ホームズを演じるベネディクト・カンバーバッチは『ドクター・ストレンジ』でも天才を演じていたっけ。これも2017年公開か」
「『マイティ・ソー バトルロイヤル』にも出ていましたね」
◆
「次は読書カテゴリから『ゲンロン0 観光客の哲学』と『アーカイヴの病』。そもそもこの軸が浮かび上がったのはこの2冊に依るところが大きい。『ゲンロン0』は家族――親子の話だったし、『アーカイヴの病』は何をアーカイヴとして継承していくかという話だった」
「『アーカイヴの病』は再読したんですよね」
「うん。『MOTサテライト 2017秋 むすぶ風景』で記憶に関連するインスタレーションを観ていたら、こうして想起された記憶も、その記憶を想起させた作品も、やがてロストしてしまうと思うと儚くなってしまって」
「双司君、ぼちぼちメモ魔ですしね」
「メモする割には読み返さない」
「それでもそのおかげでこうしてメモ代わりにブログが続いているのだからよしとしましょう。そうしてくれないと私の出番がなくなってしまいます」
「急にメタいな……」
「次は新書カテゴリですよぉ?」
◆
「新書カテゴリからは『珈琲の世界史』。来歴について知識があると、より楽しめるという話。『恐い絵展』が企画された動機もそうだった。来歴を知ることで、感じられるものが変わるという話。対象そのものだけからでは、届かない場所がある」
「それって、初心者に対して排他的になりません?」
「なりかねないと思う。でも、自分はどちらがよいとも考えない。知らなくても楽しめるし、知っていると違った味わいがあるけれど、先に知ってしまうと知らない状態での味を楽しめない。そういう話だと思う」
「ネタバレを喰らってしまうと興醒めしてしまいますしね。それでは漫画カテゴリにいってみましょうか」
◆
「漫画だと『僕のヒーローアカデミア』とそのスピンオフ『ヴィジランテ-僕のヒーローアカデミア ILLEGALS-』。これも軸はオールマイトの後継者の話。本編主人公のデクはもちろん『ヴィジランテ』のコーイチも、直接の後継者でこそないものの、メンタル的にはフォロワー。並べてみると、コーイチがヴィランではないのはともかく真っ当なヒーローでもないところがおもしろい」
「デクくん、冷静に考えるとエリートですよね……」
「出世街道まっしぐらだよ。と思ってしまうのは、ヒーローとしての活動が営利的だった『Tiger & Bunny』の影響か」
◆
「思えば、今年観たヒーロー映画も親子が題材だったなあ。『ローガン』といい『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』といい。ローガンもヨンドゥも……」
「ヴィルヌーヴ監督のSF映画『メッセージ』、『ブレードランナー2049』もそうでしたね」
「うわ、両方とも今年か。そう言えば今年は映画濃かったなあ。数えてみたら、家で観たのも含めてだけれど、28本観ていたよ」
「月2本ペースですね」
「自分にしてはかなり多い方だ。劇場に行くとなると週末の休みに行けるかどうかってくらいの頻度なので」
「今年は劇場に行った方じゃないですか。そう言えばちょうど観てきたばかりの『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』も親子の物語でしたね」
「『KUBO』もよかったなあ。親子の物語であると同時に、物語の物語でもあった」
◆
「そう言えば星野源のライブ『Continues』の話してないや。これも継承がテーマだった」
「源さんが影響を受けた音楽の話があったそうですね」
「そうそう。こうして振り返ってみると『恋』とか『Family Song』とか、『ゲンロン0』のテーマと重なるところもあるなあ」
◆
「かなり散漫としちゃったけれど、長くなってきたし、自分の力ではうまく整理して表現するのは難しそうなのでこのあたりで」
「それはでまた来年ですね-」
「あ、最後に一言。〈来歴〉、〈伝承〉、〈継承〉、〈後継〉このあたりを軸にいろいろと喋ってきたけれど、それそのものの良さっていうのもやっぱりあるよなあ。極論、『読んでいない本について堂々と語る方法』にあるように、そこを見なくたって語れたりするし、それはそれで受け手としてはおもしろいのだけれど、パクリで儲けようとして作られたわけじゃなけりゃそれじゃなけりゃ表現できなかった何かがあるはずで、そこに目を向けなくていいってこたあないだろう。あ、ではまた来年」
「みなさん、よいお年を」
◆
「とってつけたような挨拶でしたね」
「もうすぐ『Fate/Grand Order』の第二部の続きが解放されるので」
「そういうわけでしたか……。〈Fate〉シリーズはサーヴァントの来歴なんか調べ出すとおもしろいですよね」
「吸血鬼物好きとしては、ヴラド三世が吸血鬼伝承に拘っているところが見逃せない。『ドラキュラZERO』みたいに、国民のためにあえて悪魔の力をその身に宿したというのもかっこいいよ? それから、吸血鬼ハンターのリンカーンと対決もして欲しいなあ。国王対大統領という意味でも熱いし」