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倒錯的・解剖学的 - 一八八八 切り裂きジャック

『一八八八 切り裂きジャック』を読んだ。『この闇と光』が素敵だったので、他の作品もと思い。

相違点は社会との関係性。『この闇と光』では極めて閉鎖的な世界が描かれていたのとは対照的に、『一八八八 切り裂きジャック』は史実上の事件を下敷きにしているからか、当時の社会情勢や風俗について細やかに描写されている。実在の人物も登場して、物語のうえで重要な役割を果たしさえもする。

共通点は倒錯性。なかでも一際印象深いのが「スッシーニのヴィーナス」。平たく言うと、美しい人体解剖模型。学校の怪談で夜中に動いたりするアレの美女バージョン。"Anatomical Venus" (解剖学のヴィーナス) として知られているみたい。見てみたい人は、次のWebの記事参照(模型とはいえ人体の内臓なので、苦手な人にはお勧めしない)。
書籍では、『アナトミカル・ヴィーナス』という本が今年の2月に出版されていた。ヒグチユウコさんのイラストシールつき。ちょうど先日観た『BABEL Higuchi Yuko Artworks原画展』の作品を思い出すと、さもありなんと思う。グロテスクなのに惹きつけられて止まない感じが近しい。

さらに余談。9月に公開される『エイリアン:コヴェナント』の町山智浩さんによる解説で"Anatomical Venus"に言及があったみたい。前作『プロメテウス』がよく分からなかったから、どうしようか悩んでいるところだけれど、やっぱり観に行こうかなあ。9月公開とまだ少し先だけれど。

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