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操作・相殺・異彩 - ヌメロ・ゼロ

小説『ヌメロ・ゼロ』を読んだ。今年の2月に亡くなったウンベルト・エーコの遺作。

思えば、このブログを始めたころはエーコの『「バラの名前」覚書』を読んでいた。その前にはもちろん『薔薇の名前』を読んでいたし、『フーコーの振り子』も読んだ。先日は『プラハの墓地』を読んだし、小説だけでなく『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』も読んだ。

もう新しい作品が書かれることはないのだ。そう思うと、喪失感に囚われる。でも、まだ読んでいない作品が何冊も残っている。少しずつ追いかけていこう。

『ヌメロ・ゼロ』に話を戻す。タイトルはゼロ号つまり創刊準備号を意味するイタリア語。創刊しようとしているのは新聞。主人公トロンナがその編集部で働くことになるところから物語が始まる。その理由というか、そもそも創刊しようとしている理由から入り組んでいて、冒頭から好奇心をくすぐってくれる。

この新聞を創刊しようとしているシメイがまた曲者で、ジャーナリズムの影の側面の権化のような存在。たとえば、ちょっと長いけれどこの台詞。利益のために火のない所に煙を立てようとしている。

「いいか、今日では、告発・非難に応酬するためには、その反対を示す必要などないのだ。告発者の信憑性を失わせるだけでいい。これがその人物の氏名だ。パラティーノ、録音機とカメラをもって、ひとっ走りリミニまで行ってくれ。この完全無欠の公僕の跡をつけるんだ。一〇〇パーセント完全無欠の人間などいない。ペドフィリアだとか祖母殺しだとかは言わない、賄賂を受け取ったわけでもないだろうが、しかし、何かしら奇妙なことのひとつぐらいはしたはずだ。あるいは、こういう言い方をしてもよければ、彼が毎日することを奇妙化するのだ。パラティーノ、想像力を働かせてやってくれ。いいか?」

他にも印象操作の方法がいくつも描き出されていて、何を信じたらいいか分からなくなる。そして、考えているうちに、何を信じているのかさえ曖昧模糊とし始める。かといって、分かりやすい陰謀論にのめり込むのは、現実が抱える複雑さからの逃避だろう。

プッシュされてくる情報を消費するばかりじゃなくて、事実を追いかけていくことが必要なのかもしれないなあ。

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