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ヴィランのいないヒーロー - バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)

『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(原題 "Birdman or (The Unexpected Virtue of Ignorance"))を観てきた。

メタ・ヒーローものを期待して観に行ったら、能力を持っていることは主題じゃなかった。おっさんが主人公の『クロニクル』とか『キック・アス』みたいなのを期待していたのに。あるいは、『サムライ・フラメンコ』。

よく言えばハイコンテキスト。悪く言えば内輪ネタ。端的なのが主人公リーガン・トムソンと彼を演じるマイケル・キートンの経歴。作中作のヒーロー映画『バードマン』で主役を演じた元スターを、ティム・バートン版『バットマン』で主役を演じた俳優が演じている。こういう内輪ネタを、酷い方向に振り切ると『ムービー43』になる気がする。

自ら演出・主演する形で舞台俳優として認められようとするけれど、バードマンの声に悩まされる様は、『ブラック・スワン』を思い起こさせる。繰り返し写る『オペラ座の怪人』の看板の白いマスクとバードマンの黒いマスクという白と黒の対比もあるし。

こんな風に、話にはひっかかるところが多かった。一番ひっかかったのはヒーロー映画を批判しているがゆえに、ヒーロー映画やそのヒットに依拠しているところ。しかも冒頭でも書いたように、ヒーローである必然性はない(少なくとも自分にはそう見える)。ずるいよなぁ。

一方、映像と音楽は文句なしに良かった。

まず映像。2時間ほぼワンカットに見える。調べて見ると、撮影監督が『ゼロ・グラビティ』と同じエマニュエル・ルベツキという方らしい。ゼロ・グラビティの冒頭のカットも長かった。そう言えば『ニーチェの馬』も長回しでワンカットが長かった。ワンカットが長いと、息をつくタイミングが分からないから、どんどん緊張が高まっていく。

それから音楽。ジャズドラムが格好良かった。映像とシンクロしているのがまたいい。特に、主人公リーガンが、苛立ちのあまり足音を高くして歩き乱暴に扉を開けるシーンのカタルシスたるや。余談だけれど、ちょうど同時期に公開されている『セッション』はジャズドラムが主題らしいので、ちょっと気になってきた。余談ついでにドラム映画というと『77 Boadrums』を思い出す。

面白くないことはなかったけれど、期待していたのとはちょっと違う話だった。でも、映像と音楽は本当に凄かった。それに、こうして振り返ってみると色々と想像が膨らむ。巧いというかズルいというか。

ヒーロー映画的言葉を使って形容すると、この映画は、ヒーロー映画というヴィランがいるからこそ成立したアンチ・ヒーロー映画。そういう意味では、もしかしたら世界で最初の能力者かもしれないバードマンがヴィランと化して、ヒーロー映画に再反転してもおかしくない。もしそうなったら、バードマンは画家志望だったヒトラーに重ねられそうだ(この軽率さもステロタイプなヒーローものっぽい)。そんな続編が出たりして(出ない)。

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