「『臨機巧緻のディープ・ブルー』を読んだよ」
「小川一水さんの作品ですね」
「うん。〈天冥の標〉シリーズが面白いので別の作品も、と思って」
「この作品はどうでしたか?」
「何だか懐かしい感じがしたよ」
「SFなのに?」
「うん。宇宙での艦隊戦とか、異星人との遭遇とか、いわゆるスペースオペラで多用されるパーツがあったからだと思う」
「でも、あのシリーズの作者さんということは、勧善懲悪だったというわけではないんですよね?」
「正解。テーマは繊細だったよ。科学――いや、科学を生み出した知識欲か。あ、だからか、主人公がエースパイロットどころか戦闘要員ですらなくて、カメラが相棒の記録係なのは」
「でも、写真を撮られたくないという人もいますよね」
「知識欲もあるけれど、知られて実害のないことも知られたくないという気持ちもあるから、難しいよね」
「あ、知られたくないと言えば『スペースダンディ』11話では、知ってしまったら記憶が消される宇宙人が出てきましたね」
「おお、そう言えば!! 極北だなぁ。でも、この作品にはそういう抽象的な話はあまり出てこなかったな。そういう意味では具体的で親しみやすくて良かったと思う。こういうSFもいいなぁ、と改めて思ったよ」