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さよならの間

相田家のグッドバイ『相田家のグッドバイ』を読んだ。

著者・森博嗣の伝記のよう。ブログ『Mori Log Academy』、エッセイ集『森博嗣の道具箱』(感想)で読んだ、著者本人やその家族のエピソードが散りばめられている。

でも、水柿君シリーズのような自伝のような作品ではない。本作では、視点がころころと変わる。物語の中心となる紀彦(著者?)が、「ようやく完全に、そして冷静に親というものを見つめることができるようになった」ことを反映しているのかもしれない、と想像する。

想像はするけれど、答えは求めていない。そもそも、伝記のよう、という印象が的外れかもしれない。これも著者自身がどこかで書いていたことだけれど、ブログやエッセイ集に事実を書いているとも限らない。念のため補足しておくと、嘘を書いていると書いていたわけでもない。

いずれにせよ、読んで良かった、と満足している。それで十分。ただ、読んで良かった、と思えたのは、今の自分だからだろうな、と思う。もう何年か前だったら、親から離れて暮らす前だったら、全然違う感想を抱いていたと思う。その時に比べたら、今は紀彦と視点がずっと近い。もちろん、相対的に近付いだけで、絶対的な距離は、何年か前の自分との方がずっと近いのだけれど。

紀彦視点の地の文を読んでいると、自分と近いところがあって面白い。もう少し正確に言うと、近いところも遠いところもあって、その差分が面白い。近いところはそれが自分にとっての自然だし、遠いところは遠ざかった理由を考えて自分にとって自然なのはどんな状態か考える材料になる。

少しずつ自由になっているかな?

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