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他者の意味

「ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』を読む」
を読んだ。
本書は『はじめて考えるときのように―「わかる」ための哲学的道案内 』(感想)と同じ著者の作品。
本書の方が堅いし、難い。

本書のテーマは、ウィトゲンシュタインの『論理哲学論考 (以降、『論考』)』
『論考』を次のように捉える著者とともに、『論考』を読んでいく本。
『論考』は、この現実とこの言語を引き受けた私がどれほどのことを考えうるのかを確定しようとした著作である。
『論考』を読んだことがないので、本書を読んだ体験との比較はできない。
でも、少なくとも、『論考』を読んでなくても、本書は面白いと思う。

特に、著者がときどき『論考』の一部に反論して、全体の整合性を高めようとしている所。
最後の第14章に至っては、「『論考』の向こう」と題して、その先を目指そうとしている。

自分にとって最も印象的だったのは、「意味の他者」に関する次の一文。
この主張は、第14章でなされており、『論考』から引き出されるものではなく、著者自身の主張。
いまは理解できないが、きっと理解できるようになるはずだという希望、その誘惑の力、これが他者なのである。
乱暴に自分の理解をまとめると、言語・文化・分野・文脈・習慣などが異なれば、最初はコミュニケーションがままならないだろうけれど、遣り取りを続けていく内にスムーズになっていくはず、という希望。
この楽観が、心強い。

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