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ConclusionS

『今こそアーレントを読み直す』を読んだ。

『「不自由」論』(感想)と同じく、アーレントについての比較的読みやすい本だと友人から聞いたのが、本書を手に取った理由。

本書は序論+4章の全5章から構成されており、自分にとって水平方向に新しかったのは、第3章と第4章。
第1章と第2章も面白かったけれど、テーマ自体が『「不自由」論』で軽く触れられていた「悪」と「人間本性」だったので、新しさは垂直方向だった。

その第3章、第4章に書かれているのは、「自由」と「観想的生活」。

アーレントがいう「自由」は、制約からの解放ではなく自制による自縄だ。
カントの「自律」を思い出す。

「観想的生活」は、思索に耽る内省的な生活のこと。
『人間の条件』(感想)では、「活動的生活」の影に隠れていたけれど、未完の遺作『精神の生活』では、むしろこちらに重きが置かれているとのこと。
活動の対極とも言える「傍観」も、活動結果のよりよい評価のために重要だと言っている。

こうしてざっと振り返ってみると、あれもこれもで主張がないようにも見えるけれど、著者によるとそのように見せているのも戦略らしい。
アーレントの目標は、特定の結論が広く合意されることではないらしい。
全体主義に通じる恐れのある「思考の均質化」だけは何とか防ぐというミニマルな目標を追及した控え目な政治哲学者ではないかと私は考えている。
これには、賛成。
本を読んでいて、色んなことを考えている人がいるなぁ、と感じて、安心するのと似ている気がする。

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