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良い本を - 紙の動物園

紙の動物園 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)『紙の動物園』を読んだ。この本は15篇からなる短篇集。

表題作を始め、ウェットでセンチメンタルな話が目立つ。それらはそれらで良かったんだけれど、自分の好みは「選抜宇宙種族の本づくり習性」と「良い狩りを」、それから「1ビットのエラー」

「選抜宇宙種族の本づくり習性」は色々な宇宙人の本――情報を伝承していく手段の話。本好きなので堪らない。一見カタログ的に書かれているように見えて、複数種族の話がうっすらと繋がっていてニヤリとさせられる。

「良い狩りを」はライトノベル的。漫画の読み切り作品っぽくもある。連載=長篇化したら楽しそう。途中まではよく見かける物語にしか思われないのだけれど、最後の急転直下から急上昇が燃える。マンガとかアニメにしても映えるだろうなぁ。

「1ビットのエラー」はテッド・チャンの「地獄とは神の不在なり」に強く影響を受けた作品とのこと。同じテーマを扱っているけれど、こちらはもう少しテクニカルでパーソナルな印象。

全体を振り返ると、バラエティに富んでいる上に、どれも完成度が高かったように思う。これで多作だっていうんだから、ビックリする。他の作品も翻訳されないかな。

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『ゴールデンカムイ 15』、『〃 16』を読んだ。16巻を読み始めてから、15巻を買ったものの読んでいなかったことに気がつく。Kindle版の予約注文ではままあること。 15巻は「スチェンカ・ナ・スチェンク」、「バーニャ(ロシア式蒸し風呂)」と男臭いことこのうえなし。軽くWebで調べてみたところ、スチェンカ・ナ・スチェンク (Стенка на стенку) はロシアの祭事マースレニツァで行われる行事のようだ[1]。それなりになじみ深いものらしく、この行事をタイトルに据えたフォークメタルStenka Na StenkuのMVが見つかった。 16巻では杉元一行は巡業中のサーカスに参加することになる。杉元と鯉登の維持の張り合いが、見ていて微笑ましい。鯉登は目的を見失っているようだが、杉元もスチェンカで我を失っていたので、どっこいどっこいか。なお、サーカス/大道芸を通じた日露のつながりは、実際にもこのような形だったようだ[2]。 個々のエピソードから視線を上げて、全体の構図を眺めてみると、各勢力がすっかり入り乱れている。アシㇼパは尾形、キロランケ、白石とともにアチャの足跡を辿り、そのあとを鶴見のもとで家永の治療を受けた杉元が鯉登、月島を追っている。今更だけれど、杉元やアシㇼパは、第七師団と完全に利害が衝突していると考えていないはずだった。一方で、土方一味も入墨人皮を継続。むしろ彼らの方が第七師団との対立が深刻だろう。さらに北上するキロランケはまた別の目的で動いているようだけれど、なんで尾形も一緒なんだっけ? 『進撃の巨人』に引き続き、これもそろそろ読み返す時期か。 [1] 5つの暴力的な伝統:スラヴ戦士のようにマースレニツァを祝おう - ロシア・ビヨンド [2] ボリショイサーカスの源流は、ロシアに渡った幕末日本の大道芸人たちにあった 脈々と息づく「クールジャパン」 | ハフポスト

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