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Hallo 波長 - 波の手紙が響くとき

波の手紙が響くとき (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)『波の手紙が響くとき』を読んだ。次の4篇からなる連作短中篇集。最初の3作が短篇で、最後の表題作が中篇。この本の半分くらいを占めている。
  1. エコーの中でもう一度
  2. 亡霊と天使のビート
  3. サイレンの呪文
  4. 波の手紙が響くとき
武佐音響研究所の面々が、その技術を活かして音響に関する手がかりをもとに事件を解決していくミステリィ――なのは、最初の3篇。これはこれで面白い。このままシリーズ化されていたらきっと読み続けていたと思う。

ところが、最後にセンスオブワンダーが爆発する。正直ちょっと戸惑ったけれど、この急変にも関わらず、最初の3篇からきっちり伏線が張り巡らされている構成の巧みさに、すぐにさもありなんと思わせられてしまった。そして、そう思った瞬間の震撼!!

聴覚ではなく、嗅覚で、SF的ではなく文学的にスケールしていた、『香水―ある人殺しの物語』(映画版のタイトルは『パフューム ある人殺しの物語』)をかすかに連想する。

ほとんど視覚で世界を認識しているけれど、その他の感覚がメインで認識している世界ってどんなんだろう。

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