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本当の本と本屋の本懐 - 本の逆襲

本の逆襲: 10 (アイデアインク)『本の逆襲』を読んだ。

この本は、
「出版業界の未来」と「本の未来」とは、別物だと考える
筆者が、
これからの本の世界を歩くためのコンパクトな地図のような本
となることを意図して書かれている。

でも、読書案内というわけではない。書かれているのは、「本」や「本屋」のこれからについて。タイトルどおり、本好きとしては勇気づけられるこれからが示されていた。『本屋は死なない』が、勇ましいタイトルとは裏腹に悲観的な内容だったのとは対称的 (余談だけれど、筆者は『本屋は死なない』でインタビューを受けていて、本書でもそのときのことが触れられている)。

本書を読んでいたら、いつの間にか自分にとっての「本」や「本屋」について、改めて考えていたので、整理してみる。

「本」について

筆者はとても柔軟な考えを持っている。色々な例を挙げているけれど、「なるほど」と思ったのはコレ。
スマートフォン版の写真集が本なら、撮った写真をプレビューしちえるデジタルカメラの画面だった本でしょう。
今のデジカメにも撮ったそばからWi-Fiなどでデータをアップロードしてスマホなどからアクセスできる機種があるけれど、今後は高精細な画面を持ったデジカメが出てくるかも知れないと思った(し出て欲しい。もしかしたら知らないだけでもう出ていたりするのかな?)

実際、自分にとっての「本」もここ数年で随分様変わりした。2008年9月の時点ではこんな風に書いていた。
最初から電子テキストが流通すると、嬉しいのだけれど、持ち運べるリーダに素敵なものがないから、自分は本を選ぶだろう。仮にリーダを使うとしたら、ニンテンドーDSかな、今のところ、良いかもしれないと思えるリーダは。
Mirror House Annex: 何で読むか
それが、2011年にはiPadでePubの『津田マガ』を読み始め2012年にはKindleストアで買った新書『ウェブで政治を動かす』を読んだのを皮切りに、小説やニコニコ書籍の漫画も読み始め、ついにこの『本の逆襲』はスマホ (shl 22) で読んでしまった。

リーダの問題が端末の進化で解消したことで、自分はやはり紙の本も好きだということが再確認できた。『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』の感想の中で書いている気持ちはあまり変わっていない。
自分も本が好きだ。紙の書物が好きだ。どんなところが好きか、エーコの次の言葉から借りる。
ハイパーテキストという仕組みは、著者と読者の間に特有の水入らずの感じを必然的に損なうでしょう。何かを「囲い込む」ものという本のイメージは失われ、それによってある種の読み方は間違いなく姿を消すでしょう。
ハイパーテキストが損なうと言っている水入らずの感じが好きだ。「囲い込む」ものとしての本が好きだ。
ただ、少し柔軟になった。ニコニコ書籍で『ニンジャスレイヤー』を読みながら「アイエエエエ! ニンジャ!? ニンジャナンデ!?」なんて忍殺語のコメントが流れていくのを見るのは楽しい。これからもっと柔軟になるような予感。

このように解決した端末問題とは違って、2008年に不便だと嘆いていた検索性の低さは、まだ解決されていない。本書でも指摘されている。自分も早く便利になって欲しいと願う。

「本屋」について

筆者が経営する「B&B」という一例がピックアップされている。この、「B&B」はずっと気になっている。Twilogで調べたらオープン前の記事について、ツイートしていた。
家で酒を飲みながら、小説を読んでいるときが幸せ。外でやって楽しいかは分からないけれど。 / RT @CINRANET 本とビールのある生活提案する「本屋B&B」が下北沢に近日オープン、プレイベントも www.cinra.net/news/2012/07/1…
posted at 22:07:03
けれど、いまだに行っていない。
B&Bの人なんだ。ここも行ってみたいな。本とビールがあるとハッピーなので。
posted at 12:35:25

この本を読んで、その理由が少し明らかになったように思う。B&Bが「これからの街の本屋」をコンセプトとしている一方、下北沢は自分の街ではないというのが大きい。近くにこんな感じのところがあったら、ちょくちょく行ってしまいそう。図書館付近のフレッシュネスバーガーで、ビールを飲みながら借りたばかりの本を読んだこともあるくらいだし。

「B&B」が本と一緒にビールなども売っていることが示すように、この本は「本屋」についても多様なあり方を肯定している。個人の書評ブログも、立派な「本屋」のあり方だそうだ。というわけで、

俺も「本屋」だ!

と言ってしまってもいいかもしれない。

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