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エンバシー・エンパシー・シンパシー

言語都市 (新★ハヤカワ・SF・シリーズ)『言語都市』を読んだ。

何となく海外SFを読みたいと思っていたところにタイムラインに流れてきて、調べてみたら『都市と都市』と同じ著者の作品だったので手に取ってみた次第。

自分はこちらの方が『都市と都市』より好み。でも、それは『都市と都市』の感想に書いた通り、著者のスタイルに慣れたせいかもしれない。

ただ、慣れたといっても、せいぜい「謎の世界が繰り広げられる」ことを予想しているくらいで、「そんな世界が繰り広げられるか?」は分からない。導入からしばらくは親切な説明がないまま進むし、裏表紙に書いてあるような事件もなかなか起こらないので、ページをめくるのに少々気力が要った。

それでも、読み進めるのは、広がっていく世界の不思議さが面白いから。本作の舞台はアリエカ星のエンバシータウン。そこでは、先住民のアリエカ人に加え、人間と少数のその他の異星人が暮らしている。

物語はそのアリエカ人と人間の関係を巡るものなのだけれど、そこでカギになるのがアリエカ人とのコミュニケーション。アリエカ人は二つの器官から同時に発する〈ゲンゴ〉でコミュニケーションするため、普通の人間が話す言語がまるで通じない。そのため、コミュニケーションが取れるのが人間は〈大使〉と呼ばれる特殊な存在に限られている。

このアリエカ人とのコミュニケーションが異次元。人間の頭はこんなことまで考えられるんだなぁ。この異質さが感じられるから、SFは面白い。

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