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みずはのはずみ

みずは無間 (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)SF小説『みずは無間』を読んだ。キッカケはTwitter。タイムラインにタイトルが複数回現れた上に、グレッグ=イーガン好きに薦められていたので、早速読んでみた。鉄は熱いうちに打て。

読んだのはKindle版。Kindleだと、その場ですぐ買えて読めてしまう上、場所を取らないからあまり買った実感が湧かない。何にいくら使ったか記録して、買い過ぎないように気をつけないと。

なるほど、確かにグレッグ=イーガンの作品に通じる設定だ。主人公のおかれた境遇から、円城塔の『バナナ剥きには最適の日々』も思い出す。あるいは、『天冥の標 V――羊と猿と百掬の銀河』も。

一方で、グレッグ=イーガンの作品はその設定とテーマが直結しているのに対して、この作品のテーマは設定ではなくて、あくまで人に見える。文章から感じられる雰囲気もとてもウェットで、有り体にいうと苦手だ。読んでいてあまり楽しい気分にならない。自分がSFやミステリィを好んで読んでいるのは、ウェットな恋愛要素が薄い傾向にあるからだったりする。

ともあれ、食い合わせが悪そうなこの二つの要素が絡み合って、SF設定のハードさにもかかわらずスラスラ読めたのは、面白い感覚だった。読み甲斐がある作品には違いない。

以下は余談。「みずは」と聞いて真っ先に思い出したのがMonster Hunterシリーズの「ミズハ装備」。でも、その前にどこかで聴いたことがあるなと思って、ちょっと検索したら日本神話に「ミヅハノメ」という神様が見つかった。これかもしれない。名前から想像できる通り水の神様。「みずは」が言っていた人が欲しがるものに繋がる。

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