スキップしてメイン コンテンツに移動

約1か月前のニュースをひっくり返して情報整理(ただし半ば)

まえおき

2022年4月4日の日経新聞に『月曜日のたわわ その4』の全面広告が掲載されました。4日後の2022年4月8日、ニュースサイトHuffpost日本版が『「月曜日のたわわ」全面広告を日経新聞が掲載。専門家が指摘する3つの問題点とは?』(以下、記事①)を掲載[1]。その1週間後の2022年4月15日、同じくHuffpost日本版『国連女性機関が『月曜日のたわわ』全面広告に抗議。「外の世界からの目を意識して」と日本事務所長』(以下、記事②)を掲載[2]。同日、UN Women 日本事務所公式Twitterが記事②を紹介[3, 4, 5]。またYahoo! ニュースにも掲載されましたが[6]、24時間をまたず削除[7]。2020年4月20日には山田太郎参議院議員がこれを「国連による看過できない外圧」としてYouTubeチャンネル「山田太郎のさんちゃんねる」で「【第492回】緊急特集!月曜日のたわわ国連女性機関、抗議問題緊急特集」を放送しました[8, 9]。

このエントリは私の目に触れた上記に関する情報の論理的な構造を整理するために書いています。その多くは日経新聞が広告を掲載したことの是非に関する意見なのですが、そこに対する私の意見はありません。

前後編の2本立ての目論見で、この1本目では記事①の構成を整理します。記事②以降は[8、9] はじめすでに整理された情報を発見できたので、後編に収まることを期待しています(まだ書いていません)。

ポジションとメタデータ

記事①の構成に入る前に、周辺を見回して記事のポジションを確認しておきます。まず日経新聞は日本最大手の経済新聞です。「月曜日のたわわその4」は講談社コミックで、小段者は最大手の出版社の1つ。記事を掲載したHuffpost日本版はネットメディアで、「アジェンダ設定型メディア」を標榜しています[10]。

続いて記事①のメタデータについて記載します。署名は金春喜[11]。内容は治部かすけ[12]へのインタビュー取材に基づくとされています。ここでの治部かすけの立場は「専門家」であり、「メディアが抱えるジェンダー問題に詳しい東京工業大の治部れんげ准教授」です。別の立場があり利益誘導している可能性が指摘されているため「ここでの」と限定しておきます。

構成上の要点は3つ

記事①の構造上の要点は次の3点です。一言で表すと、一人の専門家が「日経新聞は自ら署名するガイドラインに反する広告を掲載した」と主張しているが、日経新聞は広告掲載の判断について答えなかった。以上です。

  • 日経新聞はUN Womenなどによるガイドライン「女性のエンパワーメント原則」に署名しているという(おそらく少なくともある時点での)「事実」 
  • 『月曜日のたわわ』全面広告は「女性のエンパワーメント原則」に反するという「治部かすけが強調する意見」 
  • 取材に対する日経新聞の広報室からの「今回の広告を巡って様々なご意見があることは把握しております。個別の広告掲載の判断についてはお答えしておりません」というコメント

その1:日系のガイドラインへの署名が見つからない

1つずつ確認していきます。1点目は記事①の下記記載に依ります。しかし根拠情報を見つけられませんでした。「女性のエンパワーメント原則(WEPs) | UN Women – 日本事務所」[13]からのリンク「WEPs 参加日本企業一覧」は閲覧できませんでした。404 Not Foundが返ってきます[14]

日経新聞は、国連女性機関(UN Women)などがつくった「女性のエンパワーメント原則」というガイドラインにも署名している。

その2:取材先=ガイドライン制作サイドの主張

2点目は事実なのでしょうが、ミスリードを誘っており公正さに欠くと考えます。記事①は治部かすけがガイドラインの制作に関与したことが記載されておらず、外部の専門家であるかのような印象を与えています。

治部准教授は、今回の全面広告はこのガイドラインにも反すると強調する。

関与したことは記事①からリンクされている『WEPsハンドブック』[15]の謝辞に、治部かすけの名前が挙げられていることから確認できます。

コラムの執筆や企業インタビューにご協力いただいたAGメンバー兼メディア・ストラテジストの治部れんげ氏

AGとは「WE EMPOWER Japan Advisory Group」の略称であり、「WE EMPOWER Japan」はグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン[16]とともに当該ハンドブックを共同企画・制作した当事者であることもハンドブック内に記載されています。

また"WE EMPOWER Japan"はUN Women日本事務所によると、

WE EMPOWER Japanは、G7諸国の民間セクターにおけるジェンダー平等推進を目的とした、国連女性機関(UN Women)、国際労働機関(ILO)および、欧州連合 (EU)による3ヵ年(2018年〜2020年)の国際協調案件「WE EMPOWERG7」の日本での取組み

であり[13]、その「アドバイザーであり、メディア戦略パートナー」[13]である治部かすけは活動レポートも寄せています[17]。

これらの活動履歴を知らないまま記事にしたのなら情報収集力を疑いしますし、知っていて記事に記載しなかったのであれば、「アジェンダ設定型メディア」としてアジェンダの見せ方に不信を覚えます。

その3:関心の中心はここではない

記事①最後の3点目。個別の判断に対して書き留めておきたいことはありません。

日経新聞の広報室はハフポスト日本版の取材に「今回の広告を巡って様々なご意見があることは把握しております。個別の広告掲載の判断についてはお答えしておりません」とコメントした。

雑感

メディアと読者の関係性一般については書き留めておきたく思います。メディアと少なくない読者が、アジェンダを個別の判断に留める協調関係にあるかのように見えます。今の私の中心的な関心はそこにはありません。各判断に対して、全面的に同意できるものから到底受け入れられないものまで許容度合いはありますが、ことあるごとにどうこうしたくないと考えています。態度が軟化したり硬化したりはするでしょうが、保留し続けておきたいと思います。あるいは判断し続けておきたいと思います。到底受け入れられないものを苦しみながら見続けるのは健康によくないのでカジュアルにミュートしてよいとも思います。

ともあれ、偶発的な(判断主体にとっても私にとっても)判断誤りもあるでしょう。一度の誤りで全てを台無しと見なすのは乱暴ですし、誰のどんなコンテキストからの情報かを考慮せず評価するのは避けた方が無難でしょう、お互いにとって。

後編で書きたいこと

冒頭に記載したとおり、このあとUN Women日本事務所が主張を始めたり参議院議員が緊急特集を組んだりすることになります。なんでこんな騒ぎになっているのやら、という第一印象を出発点に元を辿ってみたらこんな塩梅です。記事①の時点ですでに取材先がUN Women日本事務所と契約関係にありました。

後編では記事②の執筆者は記事①の執筆者と同一人物であることに触れて「アジェンダ設定」の妥当性を考えてみたり、設定されたアジェンダに対する応答責任について考えてみたりしたいと思います。

ここまでは記事を話題の中心にしてきましたが、後編は記事への反応を中心にすると思います。

refs.

[1] https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_624f8d37e4b066ecde03f5b7
[2] https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_6257a5d0e4b0e97a351aa6f7 
[3] https://twitter.com/unwomenjapan/status/1514823420814393349
[4] https://twitter.com/unwomenjapan/status/1514823884373049344
[5] https://twitter.com/unwomenjapan/status/1514824208156487682
[6] https://twitter.com/YahooNewsTopics/status/1514832136851058690
[7] https://news.yahoo.co.jp/pickup/6423883
[8] https://taroyamada.jp/cat-movie/post-22608/
[9] https://youtu.be/NRRb82sh4RI
[10] https://www.huffingtonpost.jp/static/huffingtonpostjp-about-us
[11] https://twitter.com/chu_ni_kim
[12] https://twitter.com/rengejibu
[13] https://japan.unwomen.org/ja/weps
[14] https://japan.unwomen.org/ja/-/media/b97fd4652b774b44b60d919eedecc58e.ashx
[15] https://www.weps.org/sites/default/files/2021-02/WEPs_HANDBOOK_Japanese_LOW%20RES.pdf
[16] https://www.ungcjn.org/
[17] https://japan.unwomen.org/sites/default/files/Field%20Office%20Japan/PDF/WE%20EMPOWERJAPAN_Final.pdf

このブログの人気の投稿

北へ - ゴールデンカムイ 16

『ゴールデンカムイ 15』、『〃 16』を読んだ。16巻を読み始めてから、15巻を買ったものの読んでいなかったことに気がつく。Kindle版の予約注文ではままあること。 15巻は「スチェンカ・ナ・スチェンク」、「バーニャ(ロシア式蒸し風呂)」と男臭いことこのうえなし。軽くWebで調べてみたところ、スチェンカ・ナ・スチェンク (Стенка на стенку) はロシアの祭事マースレニツァで行われる行事のようだ[1]。それなりになじみ深いものらしく、この行事をタイトルに据えたフォークメタルStenka Na StenkuのMVが見つかった。 16巻では杉元一行は巡業中のサーカスに参加することになる。杉元と鯉登の維持の張り合いが、見ていて微笑ましい。鯉登は目的を見失っているようだが、杉元もスチェンカで我を失っていたので、どっこいどっこいか。なお、サーカス/大道芸を通じた日露のつながりは、実際にもこのような形だったようだ[2]。 個々のエピソードから視線を上げて、全体の構図を眺めてみると、各勢力がすっかり入り乱れている。アシㇼパは尾形、キロランケ、白石とともにアチャの足跡を辿り、そのあとを鶴見のもとで家永の治療を受けた杉元が鯉登、月島を追っている。今更だけれど、杉元やアシㇼパは、第七師団と完全に利害が衝突していると考えていないはずだった。一方で、土方一味も入墨人皮を継続。むしろ彼らの方が第七師団との対立が深刻だろう。さらに北上するキロランケはまた別の目的で動いているようだけれど、なんで尾形も一緒なんだっけ? 『進撃の巨人』に引き続き、これもそろそろ読み返す時期か。 [1] 5つの暴力的な伝統:スラヴ戦士のようにマースレニツァを祝おう - ロシア・ビヨンド [2] ボリショイサーカスの源流は、ロシアに渡った幕末日本の大道芸人たちにあった 脈々と息づく「クールジャパン」 | ハフポスト

Memory Free - 楽園追放 2.0 楽園残響 -Goodspeed You-

『楽園追放 2.0 楽園残響 -Goodspeed You-』を読んだ。映画 『楽園追放 -Expelled from Paradise-』 の後日譚にあたる。 前日譚にあたる『楽園追放 mission.0』も読んでおいた方がいい。結末に言及されているので、こちらを先に読んでしまって後悔している。ちなみに、帯には「すべての外伝の総決算」という惹句が踊っているけれど、本作の他の外伝はこれだけ [1] 。 舞台は本編と同じでディーヴァと地球だけれど、遥か遠く外宇宙に飛び立ってしまったフロンティアセッターも〈複製体〉という形で登場する。フロンティアセッター好きなのでたまらない。もし、フロンティアセッターが登場していなかったら、本作を読まなかったんじゃないだろうか [2] 。 フロンティアセッターのだけでなくアンジェラの複製体も登場するのだけれど、物語を牽引するのはそのどちらでもない。3人の学生ユーリ、ライカ、ヒルヴァーだ。彼らの視点で描かれる、普通の (メモリ割り当てが限られている) ディーヴァ市民の不自由さは、本編をよく補完してくれている [3] 。また、この不自由さはアンジェラの上昇志向にもつながっていて、キャラクタの掘り下げにも一役買っていると思う。アンジェラについては前日譚である『mission.0』の方が詳しいだろうけれど。 この3人の学生と、フロンティアセッターとの会話を読んでいると、フロンティアセッターがフロンティアセッターしていて思わず笑みがこぼれてしまう。そうして、エンディングに辿りついたとき、その笑みが顔全体に広がるのを抑えるのに難儀した。 おめでとう、フロンティアセッター。 最後に蛇足。関連ツイートを 『楽園残響 -Goodspeed You-』読書中の自分のツイート - Togetterまとめ にまとめた。 [1] 『楽園追放 rewired サイバーパンクSF傑作選』は『楽園追放』と直接の関係はない。映画の脚本担当・虚淵玄さんが影響を受けたSF作品を集めた短編集。 [2] フロンティアセッターは登場しないと思って『mission.0』を読んでいない。 [3] 本編では、保安局高官の理不尽さを通して不自由さこそ描かれてはいたものの、日常的な不自由は描かれていなかったように思う。アンジェラも凍結される前は豊富なメ

報復前進

『完全なる報復 (原題: Law Abiding Citizen)』 を観た。 本作では、家族を押し入り強盗に殺された男クライドが、その優れた知能と技術でもって犯人に報復する。 ここまでで半分も来ていない。本番はここから。 クライドの報復はまだまだ続く。 一見不可能な状態からでも確実に報復を続けるクライドが、冷静なのか暴走しているのか分からず、 緊張感をもって観ていられた。 欲を言えば、結末にもう一捻りあると嬉しかった。 ちょっとあっさりし過ぎだと感じてしまった。