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異体字と対峙 - 追跡・則天武后

『追跡・則天武后』を読んだ。

東京国立博物館で、彼女が中国唯一の女帝であり、権威づけに仏教を頼っていたとを知り、興味が湧いて。どこかで読み囓っていた、暗殺・拷問で政敵を排除して、晩年まで色欲に溺れていたイメージとは遠くかけ離れている。

20年も前の本なので、最近はまた違った見方もされているのかもしれないけれど、本書では悪女と思われているが善政も行ったということで見直されているという趣旨で紹介されていた。

アカデミズムの色よりジャーナリズムの色が濃く、トリビア的な話も散りばめられていたのがうれしかった。たとえば容姿について。娘が母に似て額が秀でているという記述があるそうだ(某ゲームでおでこ枠なのは、これに由来しているのだろうか?)。

それから漢字にも強い執着を見せ、わざわざ新しい漢字を作ったそうだ。もともと本名は「照」なのだが、「明」の下に「空」という漢字を作り、これを自分の名としたそうな。しかも他に使ってはいけない、彼女のためだけの漢字だった。他に十六文字あり、則天文字と呼ばれているのだけれど、既に使われなくなって久しい――というわけでなく意外なことに日本で生き延びている。その字は「圀」。「国」の異体字であり水戸光圀の名前として残っている。

日本とのつながりといえば、仏教繋がりで玄奘三蔵の訪問を受けている。歴史に疎く、同時代の人だなんてまったく意識していなかったので驚いた。それで某ゲームで、と納得。

子供だった頃は各国神話に出てくる名前をRPGで知ったりしていたし、三つ子の魂百まで、か。

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